第二十九話 セールと風

風がセール上をスムースに流れる。この事によって、揚力が生まれ、その揚力を前進する力に変えて走ります。要は、風がセール上をいかにスムースに流れるか? スムースとは言っても、できるだけ揚力を生み出す事も必要になります。

燃料が目には見えない風ですから、なかなか難しい。セールの形をどんな具合に作ったら、風がどういう具合に流れていくのか?風がスムースに流れようと、乱れていようと、それを知るのは、人間の感知能力になります。風に色でもついていれば解りやすいのですが?

風がきれいに流れれば、それがスピードに影響します。速いという事は、最も効果的であり、抵抗が少ないという事になります。しかし、スムースに流れるだけでは不十分で、十分にパワーを得ているかという問題もあります。つまり、必要十分なパワーを得ながら、スムースに流れる必要があります。しかも、目に見えない風を相手に。これが簡単では無い事はすぐに分かります。

計器を使って、それらを目に見える形に変えるという方法をとりますが、でも、それだけというわけにもいきません。やっぱり、人間の鋭い感覚というものが必要になります。人間の感覚は鍛えれば鍛える程に鋭くなります。微妙な違いを感じ取れるか、取れないか、最終的には人間の感知能力
がモノを言う事になると思います。

ヨットを通して、セーリングを通して、自分の感覚を遊ぶ。結局は、自分自身を味わっているのかもしれません。何とアナログ的でしょうか。機械を使って、こうセットすれば、こういう結果を得る。そういうきちっとした世界では無く、実に、曖昧な世界です。だからこそ難しいのですが、だからこそ、そこに面白さがある。

走れば良い程度であるなら、簡単な事ですが、その先は難しい。感覚の世界。しかし、求めるのはスピードだけでは無く、ヒールする感覚、動きの感覚、滑らかさの感覚、加速感、レスポンス、いろいろあります。感覚が鋭くなればなる程、面白さの次元が深くなっていきます。だから、同じように走っていても、同じような面白さを得ているとは限らない。ある人は感知していない、別な方は感知している。それだけで、面白さは違うと思います。

風に対するセールの形。速い風は、セールが大きくカーブしていると大きなパワーを与えますが、同時に大きくヨットをヒールさせます。それに、風がセールのカーブに対して、速すぎて追随できないかもしれない。遅い風は、大きなカーブに追随できますし、フラットなカーブにも追随できます。しかし、小さなパワーしか生み出さない。この風でセールをどんな形にしたら良いのか?

いろんな事を考えて、試行錯誤しながら、どこかのポイントを見出す。そういう事を続けますと、必然的に感覚は鍛えられる。そして、いつの間にか、鋭い感覚を得てきた事に気づく事がきっとあると思います。セーリングの最終目的はこれかもしれません。セーリングを楽しむというのは、どれだけ感覚を磨けるかかもしれません。

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