第三十一話 ヨットのヒール

ヨットはセールが風を受けてヒールします。ヒールした方が良いのです。過ぎるのはいけませんが。
ヒールしないより良いのです。そうしますと、当然ながら、それは何故かという疑問が出てきます。

無風状態の時、ヨットは真っ直ぐ立っています。実は、この真っ直ぐ立った状態が、風を受けるという意味では最も効率が良い。何故なら、ヨットがヒールしますと、マストが斜めに倒れますから、例えば、マストが直立して高さ10mだとして、ヒールして9mになるとしますと、セールが風を受ける場合、1mの高さ分減じられる事になります。しかも、セールも斜めです。それがマストが直立していますと、想像しても分かりますが、風をより受ける効率としては良いわけです。

ところが、こう単純には行かないのですが、水面下も考える必要があります。ヨットは直立している状態というのは、最も抵抗が大きい状態です。それがヒールする事によって、接水面積が減少し、抵抗が減少します。

弱い風の時は、セールが得るパワーは少ない。従って、あまりヒールしないので、水面下の抵抗は大きい。抵抗が大きい状態で、風が弱いわけですから、風下に座ってでも、ヒールさせた方が良いという事になります。それが、風が強くなっていきますと、ヒール角度が大きくなります。水面下の抵抗も減少していきます。しかし、一般的には傾斜角度25度ぐらいでしょうか、それ以上ヒールさせると、今度は横流れの現象が大きくなり、効率的では無い。多分、ヨットによっても違うとは思いますが。

それで、強い風の時、オーバーヒールすると、横流れが大きくなるので、セールから風を逃がすようにします。それ以上ヒールしないように。でも、レーサーなんかですと、クルーを風上側のサイドデッキに座らせて、ヒールをできるだけオーバーヒールしないように努め、できるだけセールから風を逃がさないで良い状態を造ろうとします。

カタマランというヨットがあります。カタマランが何故速いと言われるか? 水面下の抵抗が一般モノハル艇より小さいという事ももちろんありますが、カタマランは基本的にヒールしないという事で、セールが風を受けるにも効果的であるという事です。

しかしながら、一般のカタマランは速いとは思えません。何故でしょうか? 多分、思うに、我々一般が乗る場合を想定して、セールを小さくしていると思います。もし、セールがでかくて、強風時にカタマランがヒールするようになると、下手すると一挙にオーバーヒールどころかひっくり返る危険性すら出てきます。ですから、一般用としてはセールが小さ目になっているかと思います。すると、強風でも、ヒールする事は無い。セールが小さいので速くは無い。

プロが乗るようなカタマランは非常に速いです。セールがでかい。彼らはプロですから、カタマランをヒールさせて、さらに水面下の抵抗を減少させて走ります。でも、たまに、ひっくり返っているカタマランありますね。でも、彼らはプロですから。我々が乗るのようなカタマランがひっくり返ったら大事件になります。

という事で、風が弱い時はヨットがヒールしにくいので、故意にヒールさせて、水面下の抵抗を軽減し、風が強い時は、オーバーヒールを避け、横流れを避ける為にセールから風を逃がす。オーバーヒールすると風を受ける効率も悪くなります。

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