第28話 クルージング

クルージングとは良く言いますが、クルージングとは何でしょうか。辞書をひきますと、巡航
するとか、飛行機が経済速度で走る。また、漫遊するとかあります。結局、ヨットで言うなら
ば、ゆったりと走る、帆走すると言う事になるでしょうか。この言葉は長い距離を何日も何日
もゆったりと回る、巡洋するという響きがあります。風景を見ながら、まさしく漫遊の旅という
ところでしょうか。ヨットのジャンルではこのクルージングか、或いはレースかと、誰が分けた
かは知りませんが、だいたいこの二つになる。自分はレースには興味無いから、クルージン
グだ。とこうなる。

漫遊の旅は長距離において楽しいものです。今日は行けるところまで行く。こういうあまり
計画性の無い旅、計画しても大雑把な旅に似合います。ところが、現代の忙しい方々は
きっちりと計画して旅をされます。今日はどこどこ迄行きたい。そうすると、計画とおりに進む
為には風の向きや強さなどは、時によって邪魔となる。それで、エンジンを使ってしまいます。
殆どの方々はそうです。暗くなる前に、目的地に着きたい。そう思うとよけい、風景なんか楽
しんでる場合じゃ無い。

これらを否定しているわけではありません。そうなら、1日の距離を短くして、できるだけ旅とし
ての漫遊を楽しんでいただきたいと思うのです。それには時間が必要です。たっぷり過ぎる
くらいの時間が必要です。場合によっては、どこかに一旦置いてきて、次にまた日をあらためて
続きをやる。こういうぐらいの余裕も必要かと思います。

もう、10年以上前でしょうか、スイスから来られた医者がクルージングで日本に来られました。
彼のセーリングは半年セーリングして、半年仕事するというスタイル。こんな事は日本では難
しいでしょうが、ともかく、このスタイルで世界を回っているのです。こういうスタイルは日本なら
ば引退後でなければ、なかなかできるものではありません。しかも、時間だけが問題では無い。
気持ちのパワーも必要だし、お金も要る。

旅は過程というのもあるだろうが、目的地を楽しむという事の方が大きいのではないかと思うの
です。着いた場所を探索して回ったり、地元のご馳走を頂いたり、また人々との交流ですね。
これも旅の醍醐味だと思います。でも、これさえも多くの時間が必要です。ホームポートから2,3日
で往復できる距離はそうたいしたものでもありません。年に1度くらい、1週間ばかりかける事もでき
ますが、それでも時化にあったりして、計画はなかなか思うようには行かないものです。そこで、ヨット
をあきらめるという話では無いのです。

年に1回、1週間ぐらいかけて、遠くへ行ってみる。そういう計画を持つ。でも、あとの360日弱の時間
をどうするかの方が重要です。それでは年に数回、1泊2日か2泊3日の旅をします。それでも、あと
300数十日はどうするかです。これら日々の休日には、日帰りセーリングを気楽に楽しむ事です。
そして、エンジンなど使わず、徹底したセーリングを楽しむ事にあてる。ヨット本来のセーリングを楽しむ
腕を磨き、メインテナンスし、ヨットを知り、走りを楽しむ。そして、遠出をする時はエンジンをどんどん
使えば良い。計画して、安全に明るい内に目的地につき、現地を多いに楽しむ。それで良い。
それなら、燃料さえちゃんと確保すれば、バッテリーのあがりも心配しなくて良い。1年間の使い方は
そんなのでいかがでしょうか。

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