第99話 寿命

ヨットの寿命は? とたまに聞かれる事があります。解らないというのが本当のところだと
思います。欧米の中古市場を見ますと、1950年代までは圧倒的に木造艇が多く、1900
年代初めの頃に建造された木造艇が市場にたくさん出ています。そして、そのどれもが非
常にきれいにメインテナンスされています。1950年代以前のものでは、稀にFRP製があり
その場合でも木の上からFRPでカバーしたもの、そして1950年代後半ぐらいから、FRP製
がちらほら出て、1960年代になりますと、かなりFRP艇が多くなる。

寿命を考えた場合、木造なら、腐ってきた部分を取り替えながら、100年でも大丈夫でしょう
ではFRPというと、1950年代頃から出てきて、これはそれ以上の年数が経たないと明確には
言えないというのが正直なところでしょう。ある造船所はFRP製で100年後も美しいヨットを建造
していると言っています。100年経ってみないと実際はわかりませんが、おそらく、きちんと造れ
ば大丈夫なのでしょう。まあ、現状から見るに、少なくとも、40〜50年ぐらいのFRP艇が結構
たくさん市場に出ていると言う事は、そのくらいは大丈夫という事になります。

実際、寿命というと、メインテナンスいかんによるところが大きいと思いますが、例えば、頑丈に
建造されたヨットならばそうかもしれませんが、構造的に弱い艇では、長い期間に船体が受ける
ストレスで船体がねじれ、歪が出てくる。これを修正するには莫大な費用がかかる。そうすると、
ここを寿命と見た方が良いかもしれません。或いは、FRPの積層が薄く、デッキ自体が歩いて見
るとふわふわしている物がある。これも寿命というところでしょう。つまり、FRP自体の寿命という
より、建造上の寿命という事になります。しっかり造れば100年、そうでなければ寿命はずっと
短くなる。いずれにしろ、一般的に思う長さよりずっと長いと思われます。

日本ではメインテナンスに費用をかける事が欧米に比べて少なく、日本では20年から30年経っ
た艇が大分出てきましたが、殆どがメインテナンスが行き届いていません。欧米の中古市場を
見ると、もっと古いヨットが非常にきれいにメインテナンスをされている。という事は日本では30年
ぐらいを目安にしているとしか思えない。つまり、寿命は艇の寿命では無く、人間の艇に対する
気持ちの寿命のようです。

艇が古くなると、船体がいくら頑丈でも、装備されている機器類が錆びたり、壊れたりします。それ
らを、随時、修理交換していけば良いのでしょうが、ほったらかしの場合が多い。それを勝手に寿命
と見るのかもしれません。50年というスパンで見るならば、20年経った時、まだ半分にも満たない
いろんな不具合は、その都度修理していけば、まだまだきれいに乗れる。

例えば、エンジンですが、車で30万キロ走れる。これを時間という事で考えてみますと、たとえば、
平均時速30kmとした場合、30万Km÷30kmは10,000時間、仮に平均60kmとしたら、5000
時間という事になります。つまり、ちゃんとメインテナンスして、ちゃんと乗れば、エンジンを載せかえる
なんて事を考える必要は無いわけです。まして、これまで2000時間をオーバーしたエンジンを見た
事ありませんし、1000時間オーバーでも少ない。

みんなが思う以上に、ヨットは長持ちなのです。後は、構造的な物、建造時に職人の腕次第という
ところでしょうか。

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