第七十一話 デイセーリングの意義

デイセーリングというのは、誰も特別に重視する事がありません。クルージングかレースだったら重視します。何故でしょうか? これはもうデイセーリングが当たり前になっているからではないかと思います。これから、マラソンするか、レースに出るなら、あれこれ考えて準備するかもしれませんが、デイセーリングは普通であり、例えば毎日のジョギングみたいなもののように、日常的なものとして捉えられています。

日常的というのは実際は言い過ぎで、そこまでヨットが定着してきたわけでは無いですが、まあ、散歩やサイクリング程かもしれません。つまり、特段の準備や計画など必要無いという事です。

つまり、これはそれ程に、普通の事である。それ程に頻度が高い乗り方であります。という事は、その最も気軽で頻度が高い乗り方を、面白いものにしようと考えるわけです。それが面白いなら、何も遠くに行く必要も無い。行っても良いですが。 年間にヨットに関わる日数の殆どはデイセーリングなのでありますね。

かける時間は日帰りですから、長くても7〜8時間。 短ければ、2〜3時間。シングルかゲスト有りかでかける時間も違うでしょうし、乗り方も変わってくる。この時間でできる事は、近くのスポットに上陸する事、もしそんな箇所があればですが。どこかにアンカーを打って海水浴?釣り? ゲストを楽しませるピクニックセーリング等々? これらはみんな比較的気軽にできる事ですし、天候さえ恵まれれば楽しいイベントになります。

さて、これらにもうひとつ加えるのが、このTALKの目的であります。上記のイベントから、時に意識をセーリングに向けてセーリングをもう少し真剣に取り組んでみようというアイデアです。セーリングに意識を向け、セーリングを考え、その結果を鑑賞しようという話です。ピクニックセーリングの合間に5分でも10分でも良いから、そういう姿勢を持とうという事です。

そうすると、その時間は、意識が集中し、緊張感が少し高まります。すると当然ながら、これまで感じ得なかった微妙さも感じ取る事ができます。実は、既にそういう事をみんなしていると思います。たまたま良い具合の風が吹いてきて、ヨットが軽快に走る時です。ただ、それを意識していないだけかと思います。

既にやっている事ではありますが、それを敢えて意識して、それをもう少し深めてみようという事です。セールカーブをもう少し意識的に観察し、風の角度をもう少し意識的に観察し、その結果、ある意図をもって、もう少し意識的に操作をするという事です。 それで快走なんかしますととっても面白いと感じると思います。風は偶然かもしれないが、その時の意識には偶然では無い観察があり、意図があり、その結果があるからであります。

重要な事は、意識的である事、偶然では無く、意図がある事、その結果を受け取る事。偶然の風と、より明確な意図の無い操作では、楽しさは偶然の産物になるかもしれません。それでは心もとないので、面白さを偶然任せにするのでは無く、創造していく事を考える。

意図があれば、その結果がどうだったかも明確に解ります。できるだけ真っ直ぐ走るように舵を取ると意識したからこそ、その結果は重要な意味を持つ。風向に対するセールの角度や風速に対するセールの形、タッキングをいかにスムーズに効率良く、楽にこなせるかを考えるからこそその結果が重要な意味を持つ。

意識をすると、変化がより解ります。その対応の仕方にも良くなったかどうかが明確に解ります。それが面白さなのではないでしょうか?そして、年々の上達も、意識があるからこそ、その上達ぶりも解る。それが面白さなのではないでしょうか?

そしてさらに、腕の上達だけでは無く、その瞬間瞬間におけるフィーリングも加わりますから、面白さはもっと増幅していきます。そしてそれらが面白くなりますと、その面白さをもっと広げたいと考えます。例えば、微軽風では走らなかったという経験において、エンジンでもかけて帰るか、と以前はなったかもしれませんが、そこで、微軽風用のセールを展開してみようとなるかもしれません。或は、ダウンウィンドにおいて、ジェネカーを展開してみようと思うかもしれません。そうしたら、その為にはどうしたら良いかと考えます。つまり、面白さが解ったら、少しぐらいの労力を惜しまなくなると思います。

面倒くさいと思う時、それは面白さへの欲求より面倒くさいという気持ちが強いからであり、より面白さを得るには、面白さを解っている事が必要になります。兎に角、面白さをより多く体験していく事で、より面白さが体験できる。

という事で、面白さの演出として、セーリングを意識し、自分の意図を意識し、結果を意識していく。ピクニックセーリングの中のわずかな時間でも良いから、そういう意識を持てば、偶然のセーリングから意図したセーリングに変わり、それがより面白さをもたらしてくれて、その事が面倒くさいという気持ちを減少させ、より積極的なセーリングとなり、さらにその事が意識を高めていくという好循環を創るのではなかろうか?

そうなると、セーリングに対する意識が高まりますから、明確な思考ゲームというものもできるようになる。すると、意識はどんどん広がって、セーリングの深さを知る事になります。これをスポーツと言おうが何と言おうが構わないが、意識的セーリングであります。偶然を偶然のままにしておくより、遥かに面白いセーリングができ、充実した時間が持てる。時間の長さの問題では無く、濃さの問題かな?そうなると、2〜3時間でも実に面白くなります。充実感も感じるようになると思います。

最初はピクニックセーリングの中の5分、10分で良いと思います。偶然に良い風の時でも良いと思います。その短い時間に、意識をして走ってみる事から始まると思います。もちろん、1回では無く、ピクニックの度に、毎回5分10分です。ほんのわずかな時間です。最初はセールの角度ばかり気にしているかもしれません。或はセールの形かもしれません。でも、セーリングは考慮すべき事がたくさんあります。解ってくるとそうなっていきます。それが解っていくというのも面白さであります。それが面白さになったら、多少の労力を惜しま無くなる。これが重要なポイントではなかろうか?

という事で、デイセーリングの意義とは、意識的セーリングをする事によって深さを知り、本当の面白さを知る事かと思います。

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