第八十話 ヨットの法則

水線長の長さでスピードが決まる。 水線長(フィート)をルート計算して、それに1.34を掛けた数値が、そのヨットのスピードの限界とされる。30フィートの水線長なら、7.3ノットです。排水量等による多少の前後はあるようですが、大まかこういう事だそうです。

でも、実際はこれ以上出る事があります。強風で、ヨットがプレーニングし始めると、この壁を破る。だから、レーサーはできるだけ軽くして、できるだけ早くプレーニングするように考える。フラットな船型と軽さと、もちろん、水線長もできるだけ長くします。

船体が軽いと、海水に沈んでいる体積は少なくなり、接水面積も少なくなる。その節水面積は摩擦となって、抵抗になりますから、できるだけ少ない方が速く走れる。でも、考えてみてください。これは逆に乗り心地は悪くなりますね。何故なら、水は緩衝材にもなるから。重い排水量は、その分沈んでいる体積を大きくする。水は抵抗にもなるが、緩衝材として、ヨットの動きを緩やかにします。
何しろ、空気の800倍の密度ですから。従って、プレーニングして、船体が浮いてきますと、ふらふらし易くなる。従って、コントロールもそれなりに注意が必要になる。逆に重いと、動きが鈍くなる。緩やかになる。どっちも極端は避けた方が良いかな?

ヨットの重量が重い場合でも、でっかいセールを展開すれば、速くなるし、セール面積/排水量比としては軽いヨットになります。でも、でっかいセールを操作するという大変さが出てくる。それに引き換え、軽い船体なら、小さなセールでも、速く走れし、セール操作もし易くなる。でも、レーサーは軽い船体に大きなセールを設置して、もっと速くを狙うかもしれません。レーティングの縛りもありますが。

ここにスタビリティーという要素が加わって、スタビリティーが高い方が強風には強くなる。最近では、カンティングキールなるものがあって、キール自体を左右に振れるようにして、スタビリティーを向上させるのもあるし、船体の横っ腹から、板状のボードを突き出して、スタビリティーを高めようとするのもある。これ程に、スタビリティーは重要なのであります。ただ、一般的では無いので、我々一般が使うヨットとしては、船体の重心位置や幅、そしてバラスト重量が意味をなします。

ついでながら、バラスト比というのがありますが、40%、35%、最近では23%とか言うのもあります。しかし、これはあくまでヨットが横倒しになったりして、セールに風を孕んでいない状態での、復元性です。もちろん、バラスト比が高い方が、起き上がる能力は高い。でも、これは一般のセーリングにはあまり関係が無いと思います。外洋で転覆した時の事。

それで、セーリングにおいては、船体の重心位置ができるだけ低い方が良いし、幅は広い方がスタビリティーは高くなるし、バラストは絶対重量が重い方がスタビリティーは高くなる。バラスト比では無く、セールエリアに対するバラスト絶対重量。もちろん、これだけではありませんが。

ちなみに。幅が広いと初期ヒールに対する抵抗は大きなる。でも、外洋で本当にひっくり返ると、幅が広いだけに転覆したまま安定してしまって、起き上がりにくくなる。最近のヨットは非常に幅が広い。でも、外洋に行くわけじゃないので、ひっくり返るなんて考える必要は無い。それより、幅が広い事でのヒールに対する抵抗のメリットを取る。それにキャビンは広くなるし。コクピットにはダブルラットが増えてきた。ラダーもダブルであります。

ヒールすると、ラダーが水面から上に出てくる。幅が広いと特にそうなります。よってダブルラダーです。でも、こうなると、シングルは難しいかな。いくらステアリング位置近くにウィンチがあっても、幅がありすぎる。その点シングル仕様を考えたデイセーラーは幅が狭い。だから、手が届き易い。
幅が狭いので初期ヒールはし易い。でも、ある程度からはキールが横に張り出し、バラスト重量が効いてくるから腰は強い。だから、重いバラストなんですね。初期ヒールはしたって構わない。強風だから大きくヒールするんであって、初期はヒールした方が良い。故意に風下に座ってヒールさせる事もあるわけです。

何故レーサーは幅が広いのか?多分、船底をよりフラットに出来る事と、幅が広い分、クルーも動き易いし、体重でヒールをよりコントロールできる効果もある。最新は、船底がフラットで、船体横っ腹あたりでカクンと立ち上がっているスタイルが出てきた。こうすると、船底はもっとフラットにできるかな。

新しい技術の導入によって、セーリングスタイルも変わっていきます。伸びないセールができて、走らせ方も変わる。船体技術の向上によって考え方も変わる。だから、今後、また違うアイデアが出てくるかもしれません。そうなると、また変わるかもしれません。でも、我々一般の乗り方としては、そうは変わらない。そこまで極端を追求しているわけではありません。その変化の周期はもっとゆっくりです。場合によっては、最新でも採用しない方が良い場合もある。何故なら、求めているのはスピードだけでは無いし、レーティングなる縛りもありませんから。

我々が求めているのは、美しさ、楽しさ、面白さ、操作性、グッドフィーリング、そしてスピードだと思います。速ければ良いわけじゃない。

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