第九十八話 揚力

デイセーラーに限らず、セーリングはセールにいかに揚力を発生させて、推進力を生み出し、その揚力をいかにコントロールできるかという事になります。セールに風が当たれば揚力が生まれる。その揚力には、小さな揚力もあれば、大きな揚力もある。そして、その揚力が発生する方向もあります。

揚力はセールにおいて発生しますが、その目的は前に走る事でありますが、揚力は同時に横流れを起こさせる力にもなりますので、できるだけ横流れをさせずに、前進する力を造る事になります。その横流れを防ぐのは船体側で、スタビリティーや舵をわずかに風下側に切って起こる水流における揚力はセールが造る揚力とは方向性が反対になり、横流れを防ぐ事にもなります。

我々ができる事はセール操作における揚力のコントロールと、この舵のわずかに風下側に切る操作とこの二つ。さらに、後者側はマストの設置において設定されますから、セーリング中にできる事はセール操作のみという事になります。その他の船体やキールや、これらの事は変化させる事ができません。従って、その船体が持つ特性に合わせて、セールを操作し、いかに前進する揚力を作り出せるか? それがセーリングそのものという事になります。

さて、以前にも書きましたが、揚力はセールに対して直角に働きます。ですから、上りでセールを内側に引き込みますと、セールに対して直角という事は、横方向への力が大きくなります。前進力はわずかです。だから、上り角度をつめればつめる程に、スピードは遅くなります。つまり、セールの角度は、その揚力が前側により大きくなるように、できるだけ外側に出した方が良いという理屈になります。

角度を落としていきますと、セールは外側に出して行きますから、揚力の作用は前側へ移行しますから、スピードは上がっていきます。そしてだいたい後方からの風、120度〜130度ぐらいでピークになり、それ以上走る角度を落として行きますと、スピードは遅くなっていく。後方からの風は、ヨットが走るスピードと相殺され、見かけの風が落ちていく。そして、真後ろの風では揚力は発生しなくなる。

ヨットはスピードさえ出せば良いという単純なものでは無く、そのスピードと角度によって成り立ちます。だから、ちょっと複雑になりますが、その複雑さが面白さを演出している事にもなります。ですから、セーリングとは、スピードと角度、常に、この二つの要素を考慮する事によって、面白さが増加すると考えられます。

そして、いかに船体側とのバランスにおいて、過不足の無い揚力を造り、その揚力の方向をいかに前進側に向けるか?これらを理論的に考えて操作する事になります。ヨットは実にインテリジェンスの高い乗り物でありますね。そして、これらを少ない労力でこなし、その結果を感じ取ります。
最終的には、セーリングはフィーリングだと思います。風とヨットが調和して走ると、実に気持ちが良いものです。スピードも求めますし、理論的考察もする。しかし、重要な事はそれで良い気分とか、面白さとか、そういうフィーリングを味わう事だと思います。慣れや知識や技術が、いかに自分を楽しませてくれるか? 逆に言いますと、自分の演出力にもかかっています。単なるその日の風任せにしますと、なかなか都合が良い日は少なくなりますので、できるだけ自分から働きかける事が必要かと思います。

次へ      目次へ