第五十七話 時間

セーリングにたっぷりの時間をかけても良いのですが、2〜3時間という短い時間に、濃厚なセーリングを楽しむという方法もあります。短い時間だからこそ、集中できるという事もあります。そんな短い時間なら、セーリング後に、他の事だってできます。

考えてみますと、野球というゲームはだいたい2時間ぐらい。サッカーだって、バスケットだって、
また、映画だってそうです。たまに、長い映画がありますが、間に休憩が入ったりもします。人が、ひとつの事に集中する場合、この2〜3時間という区切りは、丁度良いのかもしれません。

そんな短い時間なら、やはりハイパフォーマンスの方が良い。 集中してセーリングを堪能する事ができます。この2〜3時間のセーリングさえ都合できない程忙しいとしたら、ヨット自体を楽しむ事
ができなくなります。いくら忙しいにしても、最低、このぐらいの時間を都合つけなければなりません。 2〜3時間の集中したセーリングを楽しみ、そのアフターセーリングでは、ゆったりと、コクピットでコーヒーなんか楽しんでも良い。そういうセーリングパターンを作っても良いかなと思います。

セーリングが充実しますと、その他への波及効果も高くなり、充実感も増してくる。2〜3時間では遠くへ行けません。しかし、フィールドは狭いが、深くセーリングを楽しむ事ができます。狭いが故に、必然的にそうなります。そうしますと、必然的にセーリング自体に詳しくなる。そういう乗り方も良いと思うのです。遠くに行くだけがヨットじゃない。

そんな乗り方のヨットに必要な装備は何でしょう? 温水シャワーは要らないし、冷蔵庫だって充分には冷えない、トイレだって要らないかもしれませんが、まあ、これは緊急用としてもあった方が良いかな。でも、必要な物はそう多くはありません。だからこそ気楽にもなれるし、メインテナンスも減じられます。

それより、操作性が良くて、安定性が高くて、セーリングが面白いヨット。シングルでも楽に操船できるヨット、スポーツカーの様なヨット、デイセーリングには、そういうのが似合うかと思います。

大海を志向しても、時間が無い事には不可能です。つまり、オーナーの希望とは別に、時間という制約がつきます。だから、どんな乗り方をするか、したいかを考えると同時に、時間の事も考慮しなければ実現できません。どれだけの時間を取れるのか? 1日に、1週間に、1ヶ月に、1年を通して。 

アメリカ人というのは、成功して、早期引退が夢なんだそうです。早ければ、40代で引退。そうなると、時間はたっぷりあります。しかし、日本人は、気質の関係かと思いますが、早期引退というより、できるだけ社会と関わりを続けたいという人が多い様に思います。だから、実際の引退後に、何らかの仕事を続けたいと思う。それが仕事では無くても、社会との関わりですね。社会と一切の関わりを持たずに、ヨット一辺倒とかになかなかなれないのかもしれません。

仕事をして、或は、社会と関わりを持ちつつ、その合い間にセーリングを楽しむ。もっと時間があればと思いつつ、でも、実際は、そういうあり方というのが最も合うのかもしれません。本当に、毎日が日曜日になったとしたら、本当に充実した人生がおくれるだろうか? 忙しいとか言いながら、その隙を狙って、セーリング楽しむ。そういうのは、案外、充実感をもたらしてくれるのではなかろうか? だったら、デイセーリングは非常に良い遊び方ではないかと思うのです。

そういう意味では、デイセーラーというコンセプトが、日本で生まれて、世界に発信できたら良かったのにと思わないでもありません。ただ、日本のヨットマーケットが小さいので、なかなか難しい課題ではあると思いますが。

その発信地であるアメリカでも、1990年代はなかなか受け入れられなかった。今の日本と同じです。それが、90年代終わり頃から急速に市場は変化し、現在に至ります。彼らにも、時間という問題はあるとは思いますが、もっと重要だった事は、クルー確保から開放され、メインテナンスから開放され、もっと気楽に、自由に、セーリングを楽しみたかった。ヨットが別荘である必要性がみんなにあるわけでは無かったのかもしれません。欧米でも、大きなヨットはあまり動かない。もっと気軽にという事なのかもしれません。欧米では多くの方々が、ビッグボートからの買い替えで、デイセーラーに来られる。

時間というものを、どういう具合にできるか? これはセーリングにおける風と同じで、時間をコントロールする事はできません。だから、時間の流れを見て、合わせる事になります。ヨットは風と時間の流れをよく見て、使いこなす必要があります。その最も簡単にできる方法はデイセーリングです。短い時間ですが、濃厚なセーリングを楽しむ事ができます。

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