第六話 重量と強度

デイセーラーとって、そのスピードとセールフィーリングが重要です。どの程度のスピードを得たいかは、それぞれ違うわけですが、目指すパフォーマンスにおいて、排水量が決まる。そして、その排水量で、ある一定水準の強度を達成します。という事はつまり、3tである一定強度を得るか、或は、2tという重量で同じ水準に達するかは、当然ながら同じ構造や工法というわけにはいきません。そして、同じ強度を持ったとしても、この二つはパフォーマンスにおいては全然違う事になります。

ハイパフォーマンスを達成したい場合、ハルやデッキの重量のみならず、キャビン内の家具類や他の装備の重量も当然含まれます。よって、デイセーラーでは、船内をシンプル化し、必要な物だけの装備になります。遠くへ行くクルージングとは違いますから、必要な物はそう多くはありません。

軽く、強くという目的に使われる方法は、現在ではFRPの中に軽いバルサやPVCコア材をサンドイッチにして、樹脂には、大抵はビニルエステルか又はエポキシ樹脂を使い、昔ながらの職人によるハンドレイアップという方法では無く、全体をビニールで覆い、真空ポンプでエアーを吸い出す事によるバキュームによる圧着が使われています。また、同時に、樹脂を注入し、そのグラスに浸透させる比率をコントロールしています。これで、無駄無く、樹脂を浸透させ、必要以上の重さにならないようにできる。重量をできるだけ増やす事無く、強度を高める方法です。

さらに、船体捻れを防ぐ為に、船内にバルクヘッドやストリンガー、家具類を積層接着し、それらも強度に寄与します。基本的構造は同じでも、それを3t重量でやるか、2t重量でやるか?これによって内容は違ってきます。前話のディナミカは超ハイパフォーマンスですから、軽くする為に、船内のバルクヘッドや家具類に至るまでサンドイッチ構造を採用しています。3t重量の方なら、そこまでしなくても強度は達成できる。

重量はスピードに影響を与え、強度ももちろんスピードにも影響しますし、セールフィーリングにも影響を与えます。だから、強度は重要であり、そのうえで、ハイパフォーマンスなのか、超ハイパフォーマンスなのかという事になります。

それに加えて、安定性の高さが重要になってきて、強風時に大きな違いをもたらします。これはキールの重さが影響し、また、キールの重さは全体重量にも影響します。キールをできるだけ重くして、高い安定性を得、その代わりに、ハルを非常に軽く造る。そういう考え方もできます。ですが、だいたい、全体重量の40%前後がデイセーラーの一般的バラスト比です。前話のディナミカではバラスト比50%オーバーですが、これは超ハイパフォーマンスを狙っているからです。

最後にセールエリアとのバランスが出てきます。パワーを受けるのはセールです。そのパワーには微風という小さなパワーの時もあるし、強風という大きなパワーの場合もありますから、全体を考えてのパフォーマンスを考えねばなりません。

よって、デイセーラーの選択では、セールエリア/排水量比が非常に大きな意味を持ちます。この数値で得られたデータによって、そのデイセーラーのパフォーマンスをだいたい推測する事ができます。

このデータはあまり使われていないのですが、あらゆるジャンルにも同じ様に推測する事ができます。数値が低い場合、それは外洋艇なんかはそうでしょう。高い場合はハイパフォーマンスを狙っている。但し、デイセーラー以外では、安定性とか強度とかもバランスしているかどうかを見る必要はありますが。これが数値データとして出てこないので、何とも難しい。よって、経験上からの推測になるかもしれません。

兎に角、セーリングには、セールエリア、重量、安定性、強度、これらが非常に大きな意味を持つと思う次第です。高い強度を持つ船体では、セーリングが波に負けず、滑らか感を感じます。これが、また何とも良い気持ちなのです。

次へ      目次へ