第十二話 沿岸クルージング艇

沿岸クルージングでは、仮に、日本一周するにしても、沿岸であり、時化たら、どこかに避難できる。時化の中を何日も走り続ける想定は無い。従って、外洋艇ほどの頑丈さは要求されないし、乗り心地にしても、時化たら、ちょっと我慢すればどこかに避難できる。

一方、マリーナからの出入りの回数は多くなるので、舵効きの良さとか、でかくなるとバウスラスター、ジョイスティックの横歩きなんかも採用されます。また、排水量も外洋艇に比べたらやや軽めの方が良いし、セール面積も少し大きくなって、帆走の楽しみもでてきます。

最も数が多いのが、この沿岸用のヨットだと思います。幅は広く、フリーボードも高く、それによってキャビンは広くなりますから、ヨットに泊まったりしたり、沿岸クルージングするには良い。時化に対する安心感は外洋艇程では無いが、時化れば、ちょっと我慢して、どこかに逃げ込む事ができます。

我々の多くは、本格的外洋クルージングに出る事は殆ど無く、ホームポートから日本沿岸のクルージングです。それは海外でも同じで、ですから、最も数が多くなり、量産艇はそこを狙います。そして、多分、海外ではヨットを別荘的に使う方が多い為、現在の様な、広いキャビンの確保という流れになってきたのだろうと思います。

最もポピュラーな沿岸艇、多くの場合で、充分に用を成します。サイズが大きくなりますと、発電機を積んで、エアコン積んで、電子レンジとか、また、デッキ上では電動ウィンチやジブ、メインのファーリングシステムなんかもあります。キャビンは広いし、一般的な使い方においては、充分だろうと思います。だからこそ、最も数が多い。しかも、価格的にも安い。

デイセーリングから沿岸クルージングにおいて、どうにでも使えますし、たまにレースを楽しむ事もできますから、最もポピュラーになるのは当然かと思います。この分野を狙うのは量産艇の造船所ですが、逆に、量産を目指した造船所はこの分野に行かざるを得ない。量産して、その数がはけるのは、この分野しか無い。日本で知られる多くのヨットブランドはこのジャンルになると思います。

それで、小規模造船所はどうするかと言えば、これ以外の分野を狙います。マーケットは比較的小さくなるので、少量生産です。外洋艇とか、レーサーとか、デイセーラーとか。これらは、みんな沿岸艇に比べればマーケットは小さくなります。しかし、こういう小規模造船所というのは、世界にたくさんあります。

一般的に、多くの場合で、沿岸艇で充分なのですが、一部、外洋に行きたいとか、レースを本格的にやりたいとか、もっと気軽なスポーツセーリングをしたいとか、もっとセーリングクオリティーを高めたいとか、そういう特別な何かを求める方々が、それぞれの好みは違え、そういう方々もトータルではたくさんおられるという事になります。多種多様な要望に対して、量産造船所は応えられないので、そこを埋めているのが、小規模造船所。それも、専門分野別に分かれています。

沿岸艇は何かに特化したというより、オールマイティーを目指したとも言えます。一部の特別な要望を除いては、様々な要望に応えられる。セーリング、クルージング、レース、別荘、何でも来いという処でしょうか。海外では、別荘どころか、そこに住んじゃってる人達も少なくない。聞くところによると、ケーブルテレビも利用できるし、郵便も配達してくれるとか。 今では携帯電話がありますが、昔は固定電話も引けたらしい。 そう言えば、アメリカのマリーナにあるヨットで、窓辺に植木を飾ってあるヨットもありましたね。当時、びっくりした事を覚えています。

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