第二十五話 造船所の意図

高い安定性を持ちながら、速いヨットを建造する。例えば、セール面積/排水量比が20で、強風においても高い安定性で安心して走れるとするなら、そのヨットのスタビリティーとセール面積をそのまま維持して、船体の重量のみを軽くする。すると、必然的に、数値は上がる。上がれば、微軽風でも速くなります。

しかし、こういう場合、そこにとどまらないのが造船所で、どうせそこまでするなら、もう少しセール面積を増やして、もっと速くと考える。これが一般的な考え方ではないかと思います。速いヨットを求めるオーナーは、それなりの経験者でしょうから、ならば、もっと速いヨットにしてアピールする事になると思います。

例えば、セール面積が400平方フィートのセール面積で、排水量が5600ポンドだとすると、セール面積排水量比は、約20になります。このヨットの排水量を600ポンド下げて、5、000ポンドにすると、約22になります。微軽風に速くなりますし、強風では安定感も維持される。でも、600ポンド(約270kg)を船体から除くのは簡単では無い。強度も維持されなければなりません。そこまでするなら、セール面積を少し増やして、そのスピードを達成するか、或は、もっと速い、数値が24とか25にする事もできます。それで、造船所は、重量軽減とセール面積の両方を扱って、ひとつ上のヨットを建造し、アピールするのが一般的だろうと思います。

ハイテク技術を駆使して、数値を20から22に上げるより、そこまでするなら、もっと速いヨットを建造した方がアピール度が高いと考える。速いヨットを求める方々は、やはり経験もそれなりにある方々でしょうから。もちろん、実際は、同じヨットをどうこうするというより、サイズも少し大きくしたりして、重量軽減の割合を小さくする方法を取る。価格とのバランスもあるわけですから。

まあ、この辺りは既存ヨットの判断であって、オーナー側ではどうする事もできないわけですが、ひとつやれる事は、セール面積を大きくするという手方になります。セルフタッキングジブをジェノアに替えるというのもひとつの方法ですし、微軽風用セールを展開するのも良い方法だろうと思います。

もうひとつ重要な事は船体の強度ですが、現在の処、最も進化した技術は、バキュームバッグを使用した、樹脂のインフュージョンコントロールと言われる手方で、構造的にはサンドイッチ構造で、厚みを厚くして、この工法で建造、もちろん、ストリンガーも同様です。さらにバルクヘッド等は船体に積層にて接着、後は、補強をどこまでやっているかになりますが、ここまで来ると、実際には隠れた部分なので解りません。よって、その造船所の品質を信頼する事になると思います。そして、その信頼は、その造船所が建造する全体のモデルから推察する。モデルは違っても、工法は同じですから。

風と波で、大きなストレスを受けるヨット。どんなヨットだってぶっ壊れるわけじゃない。しかし、ヨットによっては、歪がきたりする事もある。しかし、強固にする事の目的は、大きなストレスに負けない船体を造る事で、それはスピードに影響し、また、乗り心地にも影響します。硬い船体で走ると、実に滑らかさを感じます。ここが重要ポイントではないかと思う次第です。壊れるか壊れないかの問題では無い。

よって、繰り返しますが、セール面積/排水量比、スタビリティー、そして船体の強固さ、この三つが重要ポイントだと思います。

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