第三十一話 小規模造船所

大量生産する大手の造船所があって、それに対して小規模の造船所が世界には実にたくさんあります。大量生産の造船所は当然ながら、数多く売らないと商売になりませんので、マーケットの最も多い需要の高い分野を狙い、小規模造船所では、同じ分野では適わないので、特徴を出して、量産艇ではできない分野を狙う。

当然ながら、最も需要が大きいのが沿岸用クルージングであり、その他、小規模造船所が狙うのは、外洋艇とかレーサーとか今時のデイセーラー、或は、高品質のレーサークルーザーなんかもあります。小規模造船所が生き残る為には、小規模であるが故に、品質を重視するし、特徴を重視する。

ちゃんとした規定はありませんが、だいたい、年間建造艇数が100を超えないぐらい。大規模造船所が年間数千単位ですから、その規模の差は非常に大きいと言えます。中途半端な数はかえってやりづらい。まあ、有名ブランドでも、50前後とか、セミカスタムになりますと年間ひと桁という造船所もあります。

規模が小さければ小さい程、大抵はファミリー経営になり、造船所の親父の造船に対する情熱が高い。建造艇数が少ないから一艇にかける手間も多く、品質勝負という傾向が強い。ある小規模造船所の経営者の弁では、儲かる事が第一の目的なら、できるだけ数多く売る事が必要になる。しかし、我々は、良いヨットを送り出したい。という話も聞きました。ただ、品質は良いだけに、建造期間は長いし、価格的には高くなります。かつて一度だけ、セミカスタムの造船所に関わった事があります。建造中、膨大なやりとりがあり大変ではありましたが、出てきた結果は素晴らしかった。

量産艇が価格勝負なら、少量生産は性能と品質勝負。だからといって、量産艇が悪いわけじゃない。どこまで品質を求めるか次第です。どこの世界でも同じだと思います。でも、良いヨットは確かに良い。違います。

年間建造艇数がひと桁なんていう造船所のヨットは確かに良いが、価格が非常に高い。それで、そこまで求める方は少ない。よって、中規模、それでも、年間100艇以下程度、まあ、50艇前後かな?そういう造船所では、プロダクション艇であっても、かなり品質も高いし、ある程度、オーナーの要望も聞いてくれる事が多い。セミカスタム的な要望ですね。

そういう造船所のヨットは、オプション設定が多く設けられる。セールがオプションなんて普通です。こういうヨットを望まれるオーナーは、こだわりを持つ方も多く、セールはこのメーカーのこれとか、要望があったりします。その他、冷蔵庫が要るとかマニュアルで良いとか、このレベルでは、何でもある方が良いとは限らない。必要な物にはこだわり、それ以外は無い方が良いとするレベルです。

ただ、日本で販売するにあたっては、ある程度のオプションを標準仕様に加えて出したりします。解りやすくする為です。また、このヨットには、コンセプトからして、このオプションは標準にすべきと考える事もあります。

小規模造船所は、そのコンセプトが何であれ、やはり手間をかけて建造してますし、また、長く市場に残ってきた造船所の建造するヨットは、市場に認められてきたわけですし、品質も良い。ただ、量産艇に比べると、サイズに対して割高感があるかもしれません。しかし、量産艇を比較の基準にすると、どれもが高くなるのは仕方無いと思います。

求める内容が高ければ高い程、高いレベルの職人の手間を必要とします。そうすると、たくさんは造れないという事になります。だから、世界にはたくさんの、世界市場が認めた小規模造船所が生き残ってきています。質をどう考えるか?

どんな車だって走るに問題は無い。どんなヨットだってセーリングはできる。それに質を求めればキリは無いが、だからと言ってどうでも良いとも思え無い。ある程度はと思います。その程度がどこら辺りか? 

ヨット文化始まりの時期には、誰も質を問う事はありません。今まで無かった処に、新しいものが出現するわけで、質なんかも解りません。しかし、時が経ち、ある程度浸透していくと、解る人達が出てきて、質を問う人達も出てくる。しかし、価格の問題もあるので、ワンサイズ落としてでも質を求めるという手もある?

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