第五十四話 セーリングの条件

セーリングにおいては、いろんな調整をするわけで、その調整する事自体を遊ぶ事になると思います。その調整で、何が、どう変わるのかを遊ぶ。それには、軸になる事が必要で、その調整は、何の為なのか? 現状の風向と風速において、どこを軸とするか?

風向は変化しますが、常に同じ方向から風が吹いてくるように、舵操作で風向に追随する。例えば、風向が30度ならば、風向がいかに変わろうが、常に30度になるように舵取りをします。或は、走る方角を一定にして、風向変化には関係無く、同じ進路を保つ。コンパスで90度をキープするとか、向こうに見える目標物とか、基本的にはこの二つ。風向に追随して走らせれば、変化するのは風速だけとなり、セール調整は風速に合わせる。もうひとつの進路固定の場合は、風向も変わるし、風速も変わるので、その両方の調整を行う。

つまり、風向追随で舵を取るか、進路固定で舵を取るかを選択し、もちろん、この二つは入れ替わったりするわけですが、重要な事は、今この瞬間、どっちで走っているかを意識してセール調整をする事だと思います。つまり、基軸は舵という事になります。そして、どちらを取るにしても、真っ直ぐ走る事が重要で、風向に追随するにしても、風向が変化しない限りは真っ直ぐ走る。無意識な蛇行はできるだけ避ける。

蛇行をしますと、風向自体は変化しなくても、その蛇行によって風向が変わる事になりますから、調整がしづらくなります。従って、舵は意識的に選択され、調整される必要がある。これは、このヨットをどういう風に走らせたいかの指示という事になります。命令とも言えます。

風向追随として舵を取れば、その命令に従って、セールは風速に対してより適切な形状を目指して調整の試行錯誤があり、進路固定ならば、セールの角度と形状の両方を試行錯誤して、ベターを目指す。つまり、全てが意識的にコントロールされる事によって、セーリングというものが、ただ走るという事では無く、如何に走らせる事ができるかという様相になる。それが面白さを生み出していくかと思います。科学的思考を巡らして、試行錯誤という実験を行いつつ、その結果を観察し、感じ取る。上手くいったり、いかなかったり、それが面白さになっていくかと思います。

反面、ピクニックなんかの時だったら、ある程度適当でも構わない。この時は主旨が違います。セーリングが主体というより、ゲストとのおしゃべりだったり、楽しさだったりします。こんな時はピクニックとして多いに楽しむべきだろうと思います。でも、セーリング主体だったら、意識的に舵操作をして、それを軸として、走らせる事によって、ゲーム性が高まってくる。という事で、舵操作はどういうセーリングにするかを決める事なります。

ヨットを楽しむに、どっちの方法でも良いわけですが、長期間に渡ってヨットを楽しむには、やはり意識的な使い分けをして、メリハリのきいたセーリングを味わっていく方が良いのではないかと思います。真剣に走らせるのは、何もレースの時に限る必要は無く、普段のセーリングにおいても、意識的になれば、それは真剣であるし、真剣になれば、自分自身も鋭敏になるし、だからこそ、セーリングが面白くなる。適当なセーリングでは適当なフィーリングになり、快走を味わったとしても、偶然に過ぎない。たまたまです。たまたまは、次のたまたまの風を待つしかない。でも、いつの事やら。

それで、セーリングの条件とは、舵操作における意識的操作という事になると思います。全てはここから始まる。これ次第でそのセーリングが決まる。上手いとか下手とか言う前に、この意識的舵操作をするかどうかではないかと思います。意識的舵操作をしたら、多少蛇行するような事があっても、そのうち慣れて真っ直ぐ走らせる事ができるようになるが、無意識であれば、そんな事さえ気づかないかもしれません。

目指すは、こんな真剣なセーリングをリラックスした状態でやる事だと思います。リラックスはのんびりでは無く、身も心も、リラックスしていながら、ある種の心地よい緊張感もある状態かな?

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