第六十四話 エネルギー

楽しさや面白さを求めるのは欲望ですが、その欲望を行動に移すとなると、エネルギーが必要になる。小さなエネルギーで済む場合もあるし、大きなエネルギーが要求される場合もある。それは各人が内に持つ生きるエネルギーから放出されるが、行動は内在するエネルギーによって、その人の考え方も行動力も規定される。

若い頃は多少の無茶や無理をする事もある。それはエネルギーが溢れているからだと思います。しかし、残念ながら、年齢がある程度以上からは、そのエネルギーは下降線を辿り始め、考え方は保守的になり、行動力のパワーも落ちてくる。無茶もしなくなる。それは、長い人生経験から、物事を知ってきたから無茶はしないという事もあるかもしれないが、エネルギーの低下の要素もある。それが、ある日突然に変わるのでは無く、本人が気がつかないくらいに、徐々に変わっていく。これは、誰もが仕方無く、受け入れざるを得ない事実かと思います。

そんな我々が今持つエネルギーで何ができるか? 今までに全く経験した事の無い事を始める事はハードルが高い。しかし、それを実行される方もおられる。それは勇気というより、相応の大きなエネルギーを持っているからできるのだろうと思います。年を取ってから、ヨットを始めるのは、相当大きなエネルギーが要求される。過去に経験でもあれば、また違うが、全く無ければ尚更の事。また、大きなボリュームを持つヨットを動かすのにもかなり大きなエネルギーが必要になる。例え、そのヨットに電動ウィンチがついていようと、バウスラスター、横歩きするようなヨットであっても、やはりそのボリュームに応じた大きなエネルギーが必要になる。或は、より遠くにクルージングに行く。これもかなり大きなエネルギーです。

そのエネルギーは瞬間的に必要な事もあるし、長い年月に及ぶ事もある。今日だけなら、そのエネルギーを集めて出す事もできるが、毎回、毎回、それを実行するとしたら、かなり大きなエネルギーが必要という事になる。しかし、それは無理な話、本人にとって、大きな決断に値するのであれば、何度もできるはずが無い。つまり、しょっちゅう、長期間に渡る事は、その一回は気軽であらねばならない。でないと続ける事ができなくなる。

エネルギーの量は人それぞれで違います。だから、同じ年齢でも行動は違う。より大きなヨットが良いとか、より遠くへクルージングする方が良いとか、そういう事は無く、自分にあったスタイルを見出す事が最も重要で、そういう点で言えば、まずはデイセーリング。これなら、誰もができる事です。初心者がヨットをスタートさせるにはもってこいです。

しかし、この同じデイセーリングであっても、ベテランも実行します。何故なら、求めればセーリングは奥が深いからです。つまり、初心者も、ベテランも同じ海域で遊ぶ。しかし、内様は全く異なる事になります。デイセーリングの良さは、最も気軽に実行できる事でありながら、深いセーリングの世界を味わう事ができる事です。一度のデイセーリングに使うエネルギーは小さくて済む。だからこそ、しょっちゅうそのエネルギーを出す事ができる。

しかし、エネルギーを発するに充分な動機が必要になります。それがセーリングの深さから来る、面白さだと思います。つまり、デイセーリングは最も簡単なピクニックから、深い面白さまであります。その深さを求めると、面白さというエネルギーが蓄えられる。面白いという事以上に、大きなエネルギーを生み出す要素は他には無いと思います。

デイセーラーはデイセーリングというジャンルを新しい境地に押し上げた。それは、セーリングの深さを求める事に着目した処にある。故に、海域が近場でできる事になり、セーリングはもっと身近になった。もし、セーリングがより遠くを目指すものであるなら、或は、レースでの勝利を目指すものであるなら、ヨットを堪能する事はそう簡単では無い。しかし、近場であり、そのセーリングの深さは、自分のレベルで自分のペースで進める事ができる。

大きなエネルギーを持つと、大きな事ができる。太平洋横断とか、世界一周とか。それはそれですごい事だが、このエネルギーは一旦放出してしまうと、次にエネルギーを貯めるのは時間がかかる。一方、小さなエネルギーを持つと、小さな事をする事になる。デイセーリングはそれに当たる。でも、小さなエネルギーを再充電するには、時間は殆どかからない。だから、しょっちゅうできる。それで、しょっちゅうやると、セーリングの横の広がりでは無く、深さが見えてくる。それは大きな行為だが、そこに至るに小さなエネルギーの積み重ねで、トータル的には大きなエネルギーを生み出す事になる。。横の広がりか、縦の深さか? 大きなエネルギーを一度に出すか、小出しにして長く、何度もやるか?どちらも、最終的には大きなエネルギーとなる。

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