第八十二話 鋭敏さ

クルージングなら鈍いぐらいが良い。しかし、デイセーリングだったら、鋭敏過ぎる必要も無いが、少なくとも鈍いのはちょっとどうかと思います。実際、セーリングしていて、鈍いヨットは、何かもったりした感じだし、ある程度はキビキビ動いてくれた方が操船していて面白い。

舵を切った時、シートの出し入れ、あらゆる処にその反応があらわれる。セーリングは操作して、その反応を味わう事なので、何も最高スピードを争う必要は無いが、セーリングにおける反応は、ある程度は鋭敏さがないと、何だか気乗りがしなくなる可能性もある。

それがデイセーラーとクルージング艇の違いでもあります。車だって、何も時速300Km出る必要なんて無い。しかし、ドライブしていて、ステアリングを切った時とか、カーブを曲がる時とか、やはりドライブ感は違うものです。それと同じで、ドライブ感を楽しむのは、その動きを楽しむわけで、何も、トップスピードだけが重要なわけじゃない。

クルージング艇で排水量が多少重くても、その分大きなセールさえ設置すればスピードは速くなる。しかも、そのセールに見合うぐらいのスタビリティーだったら、強風でもそこそこ走れる。しかし、鋭敏さというのはまた別な処にある。神経を集中させても、鈍いヨットでは反応がわかりにくい。解ったとしても、そのもったりした感じが、どうもスポーツマインドを鈍らせる。

これは何も高いレベルでの話しではありません。誰もが、乗り比べるとすぐにわかる程度の感覚ではないかと思います。元々、クルージング艇とデイセーラーでは目指す方向が違うわけで、その用途に応じたに過ぎない。キャンピングカーとスポーツカーの違い。キャンピングカーにでっかい高馬力エンジンを積めば、それゃあ速く走れるかもしれない。でも、やっぱり、走りはスポーツカーには適わない。何故なら、走るという事は最高スピードだけでは無く、如何にというその状態も含むわけですから。

硬い船体で、低い重心、排水量、それに船型、キールのデザインやら舵のデザイン、セール面積、等々の総合結果がセーリングにあらわれる。それを楽しむのがセーリングです。セーリングするなら、面白い方が良いに決まってます。ふっと加速感を感じるだけでも面白さが違う。セーリングに滑かさを感じたら嬉しくなります。面白いセーリングとは、あらゆる反応を楽しむ事だと思います。いくら神経を集中させても、反応が解らないでは面白さも減退します。

セーリングはスピードを問うのでしょうが、それだけでは無く、その質も問いたい。その質が面白さになると思います。それは鋭敏さと、それを支える船体やキール、ラダー、セール等々。求めればきりがないかもしれないが、求めないとその面白さが解らない。旅と違って、セーリングするというのはそういう事だろうと思います。面白さの方向が違う、質が違う。

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