第九十八話 質感

服を選ぶ時、今時、サイズがあえば良いとか、暖かければ良いとか、それだけで選ぶ事はありません。色あいとか素材、デザイン、肌触り、等々、いろんな要素を考慮します。さしずめ、若い女の子だったら、カワイイ という事がポイントかもしれません。

我々の服に対する要は、本来の機能以上を求めている事になります。だからファッションなんかが重視されます。おしゃれなのがカッコイイわけです。これは服が生活必需品以上の役目をになってきた事を意味します。今時、何でも良いという人はそうは居ません。似合うかな? と誰もが思います。家でも車でも、おしゃれとか、カッコイイとか、高級感とか、そういう事が重要なのです。それが進化、発展の現れだと思います。

それがヨットにも現れた。何人乗れるか、どこまで行けるか、どれだけスピードは出るか、どんな装備が付いているか、造りは良いか? そういう事に加えて、セーリングの質はどうか?質を問うのは贅沢な話しです。物があるかないかの次元では無く、物はある、その上の質を問うわけですから、やっぱり贅沢です。でも、それは服の場合や家や車の事と何ら違いはありません。時代はそこまで来たと思います。少なくとも、世界のヨットの普及率は非常に高いわけですから。

しかし、デイセーラーが目指した質は、クルージングにおける質では無く、レースにおける質でも無い。ヨットがセーリングするに、気持ちの良いセーリングとは何か? それが主題です。

1990年代の初め、アレリオンが出現し、世界は戸惑った様です。それまでのヨットとは全く違いました。フリーボードは低いし、幅はスリムだし、当然キャビンは狭かった。しかし、90年代後半から、徐々にこのデイセーラーが受け入れられ始めたわけです。当社がこれを扱い始めた頃、アメリカでもまだ苦戦していた頃で、日本での販売の意向を伝えますと、やめておいた方が良い、もっと売りやすいヨットをやった方がいいぞ、と言われたものです。しかし、2000年代に入り、瞬く間にデイセーラーコンセプトが世界に広がっていきました。

ヨットの普及率が高い世界では、この新しいコンセプトに、最初は戸惑ったものの、徐々にそのセーリングに対するコンセプトが支持されるようになり、多くの造船所で同様のコンセプトのヨットが建造されるようにもなりました。セーリングは速い遅いだけの問題だけでは無く、世界はセーリング自体に質を問うたこのデイセーラーを支持しています。これは新しい遊び方の提示です。

気持ちの良いセーリングが、簡単に、誰でも、目の前の海で味わう事ができる。しかも、シングルでもOKなのです。これは実に楽しい事なのです。旅の様にたいそうな準備も要らないし、レースは誰かが主催してくれないといけないし、クルーも集めなきゃいけません。でも、デイセーリングなら何にも要らない。おまけに、セーリング自体のクオリティーが高い。だから楽しいし、面白い。

最初はそのセーリングから自由自在感を味わって楽しんでいたと思います。やがて、それがスポーツを楽しむ人達が増えていきます。そうなると、造船所はそれに応じたハイパフォーマンスデイセーラーで応えます。そうなるとワンデザインレースなんかも盛んになります。しかし、前にもかきましたが、どんなにハイパフォーマンスデイセーラーでも、その使用目的の7〜8割はデイーリングなのです。家族。奥さん、孫、友人、彼女とのピクニックセーリングであり、シングルやダブルなんかのスポーツなんです。

最も気楽で、楽しく、面白く、エキサイティングな、この新しいデイセーラースタイルを遊んで頂ければと思います。世界ではもはや新しいとは言えませんが。日本では相変わらず、キャビン信奉が根強く、それはそれで良いのですが、でも、それらの多くはあまり使われていません。多分、皆さん忙しいのです。一週間も二週間も休めない。休めても年に1回か2回。それも、この程度の休みなら、行ける範囲も限られます。でも、デイセーリングなら、いつでもOK,半日で良い。楽しむ対象の違いです。

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