第一話 大いなる勘違い

スポーツカーにはいろんな車種がありますが、ご存知、フェラーリとかポルシェ、アストンマーチンとか、他にも、知らない車種がたくさんあります。それらのトップスピードは半端無いです。常識的には、これらの車は一般的では無い事になります。何しろ、時速300Kmで走るなんて、普通は運転できません。プロの技でしょう。ところが、街中でそれらスポーツカーを見かけます。これ如何に?

普通の車好きが、これらのスポーツカーを乗り回しています。決して、彼ら全てがプロの技を持っているとは思えません。という事は、普通のドライバーが、これらの高速スポーツカーに乗れる。だからこそ市販されてます。レーシングカーとは違うのです。

デイセーラーはハイパフォーマンスヨットです。スポーツカーと同じだと何度も言ってきました。ところが、ヨット界では、なかでも、特に超ハイパフォーマンスになると、素人には手に負えないと思ってしまいます。でも、世界でスポーツカーと同じ様に、これらの超ハイパフォーマンスデイセーラーも市販されています。これ如何に?

超高速スポーツカーで時速300Kmを、もし出したら、それゃあ、素人には手に負えないでしょう。でも、アクセルをそこまで踏み込まなければ良いわけで、まして、日本国内でハイスピードを出す事ができません。実は、ヨットも同じなんですね。

セーリングでハイスピードが出るとしたら、強風の時です。車のアクセルに値するのがセールです。残念ながら風速を制御する事はできません。しかし、セールはコントロール可能です。仮に、超高速のポテンシャルを持つデイセーラーでも、セールをリーフしてしまえば、アクセルを緩めるのと同じ作用になります。300Kmオーバーのポテンシャルを持つスポーツカーと何ら変わりません。

確かに、ハイポテンシャルのヨットを強風で、ハイスピードを狙って走らせるとしたら、それなりの技術が要求されるでしょう。それは、ハイポテンシャルで無くても、強風に挑戦してハイスピードを狙っても同じ事だと思います。強風の定義の問題もありますが、いずれにしろ、強風でハイスピードを狙うには、技術が要ります。だからと言って、ハイポテンシャルのヨットを操船するに、それ程の高い技術が必要かと言うと、そうでは無く、一般的に楽しむ事ができる。ベテランである必要は無い。それはスポーツカーと同じで、デイセーラーではセールをリーフしてしまえば良いという事になります。

あるデイセーラーオーナーの証言があります。日本で唯一の超ハイパフォーマンスデイセーラーのオーナーです。このオーナーは決してベテランというわけではありません。でも、このオーナーは一般常識に囚われる事無く、その超ハイパフォーマンスデイセーラーを選択されました。そこがすごい処です。

多くの方々が、そんなヨットには乗れないと考えます。ましてシングルなんてと考えます。ところが、実際は全然違うのです。このオーナーは、強風ではリーフをちゃんとしてアクセルを制御する事を心がけてあります。先日、奥様と二人で乗られて、風速8mで、2ポイントリーフしたら、リーフし過ぎだったと言われました。もちろん、ハイパフォーマンスですから、リーフタイミングは他の遅いヨットよりは早目にはなると思いますが、こうやってちゃんと制御できる。少しづつ、このヨットのポテンシャルと自分の技量を見ながら、楽しんでますとの事でした。

そして、何といっても微軽風には速いという点を上げられています。速いと言っても所詮は微軽風ですから、絶対スピードはそうでも無いのでしょうが、普通のヨットだったら、動いているかどうかという時でも、スーっと走る。走っているという感覚が感じられるからこそ楽しめるというわけです。
この間は、ジェネカーを展開しているヨットに、後方からジェネカー無しで、追いついて行ったそうです。

それで、曰く、特に初心者では、強風で出る事は無く、微軽風の方が多くなる。その時、走らないでは楽しくないので、やっぱり速いヨットの方が面白い。強風? リーフしてしまえばどおって事はない。それに、操船して、その反応の良さを楽しんでいるそうです。

成るほど! 目からうろこでした。免許取り立ての超初心者は別にしても、ある程度の経験がある方なら、この超ハイパフォーマンスデイセーラーでも楽しむ事ができる。決して、ベテランヨットマンだけの為のデイセーラーでは無い。世界は既にその事を知ってます。だから、そういう超ハイパフォーマンスデイセーラーが次々と生まれ、広がっている。だから、彼らは、そんなヨットを日常のセーリングとして使っている。一般の我々がスポーツカーを楽しんでいる様に。

そう言えば、昔、53フィートのヨットにダブルハンドでいつもセーリングを楽しんでいました。皆さんから、たったふたりで53フィート、良くやるねと言われたものです。でも、我々としてはどおってことは無かった。ふたりでも十分セーリングを楽しめました。ひとりが舵で、もうひとりが他のセール操作。たくさんクルーが居たら、同時にいろんな事ができるのでしょが、レースでは無く、セーリングを楽しんでいたわけで、セール操作は順番にやっても良かった。

一般に我々が持つ常識で言うなら、こんな事はできません。でも、その常識は考え直されるべき余地があります。我々は一般常識なる曖昧な感じに囚われて、楽しめなくなっている。もう一度考え直してみるべきかもしれません。常識を考察し、作り変えて、新しい常識を持つべきかもしれません。

強風は最大の難関かもしれません。でも、リーフという武器を誰もが持っています。そのリーフさえ上手に使えば、自分の技量に合わせて、セーリングを楽しむ事ができます。何が何でもフルセールで考えると大変です。どうも、多くの方々はリーフが足りないようです。いっそのこと、最大限のリーフをしてみて、リーフし過ぎと判断したら、そこから逆にセール面積を増やしてみても良いかもしれません。

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