第六話 パフォーマンスの考察

長い旅をするなら、話しは別ですが、セーリングを楽しみたいなら、それがピクニックだろうがスポーツだろうが、やっぱり速いとか、反応が良いとか、滑らかセーリングとか、そういう性能を持つヨットの方が楽しい。舵を切って、何だか、鈍い感じで切れていくより、さっと切れていく、その方が楽しいです。何しろ、セーリングはドライブ感が大事ですから。とは言っても、そのスピードや鋭さはどの程度が良いのか? ヨットによってパフォーマンスのレベルが違います。人の好みも違います。

セーリングを楽しむなら、誰もがヨットのパフォーマンスが気になります。なんだかんだ言っても、速い方が面白い。しかし、すぐにヒールするのはどうもね、とか聞かれます。高い安定性が欲しいし、いわゆる腰の強さが欲しい、そのうえで速いのが良い。こういう話しは良く耳にしますが、しかし、どうも、これは抽象的すぎます。どこをどう判断すべきなのか、いまいち、良く解りません。

それで、これをもっと具体的に整理してみたいと思います。
排水量に対してセールと風が造るパワーが大きければ大きい程、速く走れます。つまり、そのパワーは、セール面積が大きい程パワーは大きくなるし、風が強い程パワーは大きくなるので、速く走れる。また、パワーは同じでも、排水量が軽い方が速く走れます。強風で腰が強いと言うのも、安定度が高いという見方もできれば、その分セール面積が小さいとも言える。

しかし、風速は微風もあれば、強風もあって、さらに、過ぎる強風もある。これが悩ましいと言うか、面白い処で、これにどう対応するか? フルセールで走れる風速なら、セール面積/排水量比(SADR)が大きい方が速く走れます。この時、そのヨットの安定性は、まだセールパワーに勝っている。ところが、風速が上がってきて、どこかの点で安定度とセールパワーが対等になり(フルセールの限界)、さらに風速が上がると、安定度が負ける。負けるとフルセールでは走れなくなる。
よって、安定性の一役を担うバラスト重量は重い方がより安定度が高まるものの、今度はバラストが重くなると、同時に排水量も重くなる。実に悩ましい。排水量はセール全体に影響します。

この悩ましい問題を、どう解決するのか? セール操作を考えると、馬鹿でかいセールは大変になるので、ある程度のリミットは必要になり、それに対して、船体をどこまで軽くするか、そして、バラストをどこまで重くするか? これにかかっています。

これに対する答えがSADR値だろうと思います。デイセーラーには、SADR値が15ぐらいから、上は30オーバーぐらいまであります。SADR値は、そのヨットがフルセールで走れるパフォーマンスを表しています。フルセールで走る限り、SADR値が高い方が速い。微軽風でも、中風でも、強風でも、フルセールで走れる限りです。ところが、SADR値が高いヨットは、もちろん、バラスト重量も重めではあるものの、さらにパフォーマンスを上げる為に、もう少しセール面積を大きくしています。よって、微軽風でも速い。しかし、この事が強風時には、セールパワーが増して、安定度の限界が早目に来ます。だから、早目のリーフという事になります。しかし、リーフはセール調整のひとつ、こういうヨットはリーフしても尚且つ速い。リーフすればどおって事は無い。そういう考え方に至ります。

一方、SADR値が低いヨットは、微軽風において遅くなります(SADR値の高い艇との比較)。しかし、強風側には強く(これも比較の問題)、リーフ時期は遅めで良い。例えば、フルセールで風速10mまで走れるとしたら、SADR値が高い方は風速8mでリーフしなければならないかもしれません。でも、リーフしたとしても、尚速いなら良いという考えです。それで、SADR値が低いヨットはと言いますと、強風に強いので、そっちは良いとして、微軽風側には、第三のセールを展開すれば、SADR値は格段に上がって、微軽風でもスーイスイという考え方になります。もちろん、SADR値が高いヨットでも第三のセールを展開すれば、もっとスーイスイです。

つまり、SADR値は、微軽風から強風まで、そのヨットのパフォーマンスを決める事になります。数値が高いヨットは微軽風でも、強風でも、早目のリーフをしたとしても数値が低いヨットより速いと言えます。 だから、数値が高い方が絶対良いかと言いますと、それはまた別で、数値が高いとそれだけ鋭敏になります。その鋭敏さを楽しめるかどうか? これはスポーツ度と言って良いと思います。そういう鋭敏さを楽しむか、或は、もう少しゆったりの方が良いか? これはあくまでデイセーラーに限っての事です。デイセーラーはいずれもセーリング重視ですから、他のヨットとは違います。あくまでデイセーラー内での高い低いです。クルージング艇とはコンセプトが違いますので。

先日、アレリオン28で、結構な強風をセーリングしました。リーフはせずに、少し風を逃がし気味で、舵を握って、シートを片手に、同時に両方を操作できます。安定度は充分、強風を交わしながらの操作は、実に面白い。微軽風だって、第三のセールでスーイスイを味わ得る。

また、ディナミカ940だったら、この時リーフしたかもしれません。でも、もっと速かったはずです。
要はスポーツ度の違いで、どの当たりのスポーツ度を楽しむか次第です。しかし、SADR値が高いヨットでも、難しいわけじゃない。ただ、鋭敏さ、スポーツ性の違いであり、自分がどういうスタイルで楽しみたいかの違いに過ぎません。

どのあたりのSADR値が良いかは、一概に言えません。好みの問題、価値観の問題、ただ、敢えて言えば、一般的には20前後かな? もし、微軽風に不満なら、これに第三のセールを加えれば良いかと思います。この感覚をお伝えできないのが残念なんですが。付け加えておきますが、デイセーラーのセーリングはクルージング艇のSADR値とは違います。例え、同じ数値でもドライブ感が違います。

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