第三十一話 シングルハンド




     デイセーラーが全てシングルハンド仕様になっているのは、我儘なセーリングをする為です。どの方向に向か
     うか、上り、下り、その時にどんなセーリングをしてみたいか? 自由に自分の判断でできます。しかも、おしゃ
     べりは一切無し。だから、自然と、意識はセーリングに注がれる。だからこそ、感覚も鋭敏になれる。

     大きくヒールした上り、風向が変われば、舵で追随し、風が強まれば、風を逃がし、弱まれば取り入れる。その
     為に、何をどう操作するか? そんな知的ゲームを取り混ぜながら、その都度のセーリングを感じていく。
     意図した通りに、上手く走らせられたら、良い気分、そうでも無ければ、あの時どうしたら良かったのか?
     そんな事の積み重ねが、より質の高いセーリングとなり、自由自在度が増してくる。

     風が弱いと、どんなに高速なデイセーラーだって、所詮は微風。ゲストでも居たら、気遣って、エンジンでも駆け
     て帰ろうとするかもしれない。でも、シングルだからこそ、その微風をどうしたら? と考えられる。気が付くと
     全く動いてないわけじゃない。案外、ヨットは走るものです。ただ、集中力にかけてくる。じゃあ、第三のセール
     を展開してみる。それで、どれだけセーリングが変わるか? パワーが無い時は、舵操作も慎重に。舵は
     ブレーキを掛けるのと同じ事。だから、必要以上に切らない。

     第三のセールは軽い風でも、大きく膨らむ。セール生地が軽いですから。セールが膨らめば、推進力が生まれ
     ヨットを走らせる。こんな時は、船底をきれいにしておくべきだったと後悔するかもしれません。軽風だって、
     絶対スピード値は低くても、スーっと走れば気持ちは良い。すると、ますますセーリングに集中してくる。

     ジャイブの手順を考えて、舵で落としていく。それに合わせてシートを出して、反対舷のシートを引く。まだ上れ
     無い。セールのクリューがフォアステーを超える頃、やっと舵で上り始め、シートをさらに引き締める。これで
     スムースにジャイブができる。もっと慣れると、反射的に動ける。全てはタイミングを取らないと失敗。まあ、
     失敗したって、軽風だし、どうとでもできる。

     アビームの風は気持ちが良い。スピードも乗ってくる。風が弱かったら、ジェネカーでも、微軽風用セールでも
     使える。メインも出して、バングでブームを抑えておく。セールはこれで良いかな? 

     微風から強風までの風を、あらゆる方向で走るとするなら、その組み合わせは無限にある。自分の感知能力
     次第では、細かい、繊細な違いに、セーリングの奥深さを感じる。そんなこんなをゲストを招いて、無言で実行
     する事は不可能に近い。だから、時に、シングルハンドは有効に働く。このスタイルを確保する事は、ヨットを
     楽しむ秘訣ではなかろうか? 集中セーリングでも、ゆったりでも、自由自在です。

     

     

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