第九十話 体系的なセーリング



      
複雑な事は、分けて考えれば解りやすくなりますので、それで、上り限定という事にしました。しかし、それでもいろんな風があって、いろんな調整が必要になります。そこで、さらに解り易くする為、調整する基準を設けたいと思います。

それはセールを基本セットで固定してしまうという事です。セールを上げて、トラベラーは中央で、メインシートを引いて、トップバテンの後端がブームと並行、これが基本セットです。これはセールと風で造られたセールパワーをフルに利用するセール形状です。

そしてセールパワーは、やや大雑把な調整になりますが、ドラフトの深さを三段階として、浅い、中間、深いとに分けてこのドラフト違いの変化を、客観的に計器で確認していきます。それを出る度にやれば、いろんな風速でのデータを得る事ができます。それがその後の目安とする事ができます。

風速何ノットで、何度で上れるか? その際のヒール角度は何度か? そしてボートスピードは何ノット出ているか?これを様々な風速でやれば、上りのセーリングが解ってきますし、自分のヨットの性能も解ってきます。

基本的に弱い風はドラフトを深く、強い風では浅くというのがありますが、上りはその角度とボートスピードとの兼ね合いがありますから、全ての風速で三段階のドラフト調整を試してみるのも良いと思います。ドラフトの深さ違いで、上り角度がどれだけ変わるのか? もちろんスピードも、ヒール角度もです。いわば、理屈だけでは無く、実際に体験してみようという事です。

弱い風で、角度よりもスピードを出したい時、セール角度を変えるのはトラベラーです。 メインセールを扱えばリーチが緩んで風を逃がしてしまう事になります。上り角度を少し落として、トラベラーでセール角度も少し落として、スピードがついたら、再びトラベラーを引き上げて上るというやり方です。

さて、問題は強風です。強風の上りはそのヨットの安定性との関係になりますが、強風時にドラフトを浅くして、その時のヒール角度が20〜25度なら、その時の上り角度、風速、ボートスピードが、そのヨットにとって、理想的な上りという事になると思います。という事は、これを基準に考えれば操作の目安ができるという事になります。今日の風速が、理想時の風速より弱いか強いかで、どういう設定にしたら良いかが解ってきます。

それより風速が弱いなら、ドラフトを少し深くしてパワーを増やすと考えるか、でも、そうすると上り角度は少し落ちるとか、或いは、風速がそれより強い時はリーフすべきか、或いは、メインシートを出してリーチを緩めて、セール上部で風を逃がして、この時落としたブーム角度をトラベラーで引き上げて角度稼ぎをするとか、いろんなケースがあり、それをどう対応するかの基準にする事ができると思います。もちろん、その都度、計器で確認をしていきますので、明確に違いが解ってくると思います。

さて、メインシートの操作は過ぎたパワーを逃がす事が目的です。それが一時的な風速変化か、或いは、続きそうなのか、それによって対応の仕方が変わります。ブローの様な一時的なものなら、シートを瞬間的に出して、ヒール角度をそのままに抜けたら、再びシートを引いて閉じる。続く様であれば、上記した通り、上部から風を逃がして、セール下部で走る。この後、風が落ちたら、リーチを元に戻して、トラベラーも中央に戻す事ができますし、逆に、もっと強い風になるなら、リーフする事になります。

セールを固定して、そこを基準に考えて、上りではトラベラーで角度調整を行い、メインシートはセールをひねって(ツウィスト)させて、パワーをどれだけ抜くのかという調整になります。そして、ドラフトはパワー調整ですから、いろんな風速でそれぞれのドラフトを確認していけば、どの程度の風速で、どの程度のドラフトにしたら良いかが解ってくると思います。但し、強風だけは注意。オーバーヒールさせない様に。

これらを良く考えて、体系的に構築できれば、相当詳しくなれるのではないかと思います。しかも、これは上りだけに使えるのでは無く、あらゆる方向でのセーリングにも応用できます。これはいわゆる練習ですし、自分のヨットの基本的な性能を知る事でもあります。ただ、練習とは言っても、実際にやりますと、結構面白くできると思いますし、徐々に解ってくると面白いし、その後のセーリングを考えると、やる価値充分だと思います。

但し、これも全ての風速をいろいろ考えますと複雑ですから、今日の、その日の風速での上りだけを考えて、いろいろ試していけば充分だと思います。他の風速は考えないで良いし、それが何度も積み重なっていけば、必然的に全体像が掴めてくると思います。こういう事って、一旦やっておくと、気軽なピクニックさえもより面白くできるようになると思います。

        

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