第三十六話 DLR



      
水線長が長い方がヨットは速いとされます。造られる波が抵抗となって、それがスピードが上がるにつれて大きくなる。その水線長に対して、排水量が軽ければ、押しのける水も少なくなり、より速く走れると言われます。水線長が長い方が速い。排水量が軽い方が速い。でも、これは正確な表現では無いと思います。正しくは、水線長が長い方が抵抗が少ない、排水量が軽い方が抵抗が少ないという事になります。結果、速くなるわけですが、これはパワーを表すのでは無く、得たパワーに対する抵抗が大きいか小さいかです。

これを表す式があります。排水量/水線長比(DLR) です。全長は関係ありません。あくまで水線以下の問題です。クラシック系デザインは前後にオーバーハングを設けていますので、水線長は短くなり、モダン系は殆どオーバーハングを設けなくなり、よって水線長は長い。ただ、クラシック系は、ヒールしますと水線長が長くなります。この数値は、小さい程、抵抗が少ないとされます。ただ、この数値が大きい程、乗り心地としては良くなる。外洋艇なんかは大きい方が、長期のクルージングでは疲れにくい。けど、スピードは遅くなる。

排水量(ポンド) ÷ 2,240
{0.01 X 水線長(フィート)}3乗

90以下   ウルトラライト
90〜180  ライト
180〜270 中間
270〜360 ヘビー
360以上  超ヘビー

ある沿岸用の30フィートクルージング艇、これを計算してみましたら200でした。中間の軽い側です。水線長が長くなってますから。それとアレリオン30を計算してみましたら、198でした。殆ど同じです。前後のオーバーハングで水線長が短い。つまり、どちらも抵抗として同じぐらいという事になります。

               A 某クルージング艇         B アレリオン 30   
船体長             9.10m                9.17m         
水線長             8.70m                7.44m         
排水量             4,700kg               2,914kg       
セール面積          47.0u                43.2u         
DLR              200                  198           
SADR              17                   21.5          

A は水線長は長いが、排水量が重い、Bは水線長は短いが排水量が軽い、結局数値はほぼ同じです。
SADRはパワーです。そしてDLRは抵抗です。SADRはセール面積と排水量の関係になり、DLRは水線長と排水量の関係で、どちらにも排水量が含まれてます。という事は、やっぱり排水量が軽い方が速い。但し、強風時の安定性はまた別の事。これが、他艇と比較できる数式がありません。同じバラストでもデザインによって異なりますから、きちんとは比較できる数式は造れないようです。それで、同じようなキールデザインならという条件付きで、「バラスト重量÷セール面積」 で比較しても良いのではないかと思います。
セールの単位面積に対するバラスト重量で、支える安定性が見えてくるのではないかと思います。

それは兎も角、水線長は確かに長い方が速いのかもしれないが、でも、クラシックデザインの美しさも捨てがたい。速さだけが全てではありませんから。デイセーリングはフィーリングです。ただ、スピードもフィーリングですし、乗り心地もフィーリングです。そして、美しさもフィーリングです。

        

次へ       目次へ