第五話 目標と達成感



      
セーリングには達成感が無いと言った人が居ました。目標があるから頑張れる、それで達成感も味わえる。これが一般的な考え方だと思いますし、それを常識的には良しとされます。それはそれで正しいとも思いますが、しかし、これが全てでは無い。善なるが故に全ての分野にあてはめるのはどうか? セーリングには異なるニュアンスがあると思います。

目標があって、頑張って、達成感を感じて、その後は? 再び、別の目標を掲げます。この繰り返しです。クルージングやレースにはゴールがあります。でも、セーリングにはそれが無い。だからこそ、その瞬間瞬間をより強く味わう事ができます。頑張って達成するのとは違います。

より良い味わいには工夫をします。考えて、操作して、その変化を味わいます。これは目的地があって、それに向かって頑張ってるのとは違います。今の瞬間を遊んでいます。目的地が重要では無く、そもそもありませんから、今、セーリングしている瞬間を重視しています。

美味しいご馳走を食べる目的は何でしょうか? 空腹を満たす事? そうでは無くて、その料理にちょっと工夫して、より美味しくしようとします。大事な事は、美味しい料理を味わう事です。その為の工夫をも楽しみます。これはセーリングと似ています。いろいろ工夫して、時には辛すぎたとか、甘すぎた、しょっぱいとかもあるでしょうが、でも、段々上手くなって、美味しい料理を作れるようになり、その美味しさもいろいろバラエティーに富み、それを味わう事ができるようになれる。

目的は未来にありますから、意識が未来にあればある程、今のこの瞬間を味わう事が減衰されていきます。但し、頑張って、達成感を味わう事ができる。でも、セーリングは、未来よりも、今この瞬間を重視しています。敢えて、目標があるとするなら、将来、もっと上手くなりたいという事です。それでも、意識は未来では無く、常に今のこの瞬間にある。だからより深く味わう事ができると思います。料理は工夫と味わいに少しの時間差がありますが、セーリングは同時です。だから、より今の瞬間を重視している事になります。

目標と達成に慣れた我々にとっては、これは意識の転換を余儀なくされるのかもしれません。要は時間差の問題です。今を重視すればする程、この時間差がより短い程、さらに同時になると、より今の味わいが深くなると思います。

        

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