第三十一話 ニューイングランド


      

アメリカ最北東部の六州を総称してニューイングランドと呼ばれています。アメリカにおける歴史的、文化的に最も古く、初期13州の北部、アメリカ発祥の地です。当然ながら、長い歴史を持つ造船所が多く、そこで働く職人も親子代々というのも珍しく無いそうです。また、ここから生まれる多くのヨットやボートのデザインは今日で言う処のトラディショナルデザインとして、アメリカ人が最も好むスタイルです。

トラディショナルとは言っても、それは見た目のデザインに過ぎず、実際の中身は最新の素材、技術を取り入れ、性能的にも進化し続けています。もちろん、見た目のデザインも少しづつ変化していますが、ただ全般的にトラディショナルの雰囲気を壊さない。それが暗黙の了解なのかもしれません。

カスタム艇として、現在でも木造艇を建造する造船所も多く、その技術を教える学校もありますが、木造と言っても最新技術を使い、例えば、フィッシングボートで超有名なライボビッチ、ヨットでしたらライマンモースとか、今でも木造ですし、それらを支える市場も確実にあります。現代の木造は三層構造で、外皮にFRPを積層し、見た目は全く解りません。しかし、軽く、強く、振動を吸収する為、理想的素材であり、工法なのだそうです。

一方、1950年代からFRPを採用してきた造船所も多く、これによってプロダクション化され、経済的な効率は飛躍的に上がりました。ただ、殆どは大量生産へ移行する事は無く、少量、高品質、セミカスタム的な造船所が多いです。

その中に合って、1970年、メイン州にセーバー社が誕生しました。デザインは当然ながらトラディショナル、しかしながら、素材、構造、工法は最新であり、見た目のクラシック感と最新の走行性能を上手く融合させています。デザインにしても、全体の雰囲気としてはトラディショナルでも、より洗練され、より進化を続けています。

セーバー社が建造する高い品質はセーバークオリティーと呼ばれ、高い評価を得て行きます。やがて大型化して行くに連れ、一方で、市場からは小型モデルの要望も増えて行きました。その対応として、2003年にバックコーブヨット社を設立、今日、この二社は姉妹会社として、30フィートから66フィート迄を建造、確固たるブランドとして定着しています。

上の写真はセーバー45 サロンエキスプレス。今時、ジョイスティックに寄る横歩きやスタビライザー等々の装置は当たり前ですが、それは、そういう装置を設置すれば良いだけの事、船の良し悪しには関係ありません。造船所が造るのは船体です。その質こそが造船所のレベルとして評価されますし、性能を決定します。また、それは内装にも及び、トラディショナルらしく、木材をこれほどふんだんに、高いレベルで施工しているボートは多くはありません。ヨットやボートは、見た目と技術的なデザイン、使う素材、構造、工法、そして施工技術によって決まります。因みに、このセーバー45の価格はUS$940,000です。もちろん、横歩きします。でも、それはこのボートの魅力のほんの一部に過ぎません。










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