第三十六話 海とロマン


      

行きたい方向にジグザグでアプローチするとか、効率悪いですね。それも風の力ですから、どっちから、どの程度の風が吹くかコントロールする事もできません。弱い風ならもっとパワーが欲しいし、過ぎる風に対しては逃がさなくちゃいけなくなる。このご時勢にこの生産性の低さ、不便、非効率以外の何物でもありません。

ところが世界にはたくさんのファンが居る。そんなヨットに乗るのは何故でしょう?その不便さ、非効率さに挑むのは、そこに人間の知性と感性が大きな意味を持つからでは無いでしょうか?そしてその対応に寄っては素晴らしい走りを見せる。それが人間が持つ感性を刺激して、世の中の便利や効率なんかを凌駕してしまうからでは無いでしょうか?

ジグザグでアプローチするのは、そこに早く行きたいだけじゃ無い、どうやって到達するかに面白さがあるからです。便利や効率は進化の象徴みたいなものですが、決して、面白さを超えるものでは無いと思います。これはボートでも同じです。目的地に早く到達したいだけなら、車や電車、飛行機で行った方が効率的です。でも、敢えてボートというのは、海に、使い古された言葉ですが、ロマンを感じるからではないでしょうか?これこそが、我々が海に出る理由では無いでしょうか?

ロマンとか言いますと、ちょっと気恥ずかしい気も無いではないですが、でも、誰もが心の奥の何かが共鳴するのを感じるのでは無いでしょうか?それは便利でも効率でもありません。理屈じゃ無い心に響く何かです。

ロマン無くしてヨットやボートには乗れません。まして、ヨットの中でも、写真の様なデイセーラーを選択する事はできません。人の想いが、便利や効率以上の魅力を求め、それが心の豊かさに通じているのではないかと思います。便利や効率は、それ事態を目的としているのでは無く、ロマンへの単なる手段に過ぎないと思います。

写真はシングルハンドで簡単に乗れるデイセーラー、イーグル37、2019年モデルです。ロマン無くして、このヨットを選択する事はでき無いでしょう。陸上では目一杯、便利と効率を追求して、海ではロマンを求める。味わうと言った方が適切かもしれません。価格は197,000ユーロ、クラシックな見た目とは裏腹に高い帆走性能を持ち、何と言っても、誰もが振り返って見たくなる美しさは圧倒的です。

便利と楽からアプローチする前に、ロマンから見て、そのロマンを壊さない様に、或いは助長する様に便利と効率を採用する。電動ウィンチにすれば良いし、ファーラーにすれば良いし、GPSもスラスターもオートパイロットも採用すれば良いと思います。でも、ロマンはそこには無い。セールを上げて、スーっと滑らかに走るあの感じは、便利でも効率でもありません。どれだけ便利になっても、それだけで心は満たされない。ロマンは想い、フィーリング、様々な面白さ、冒険、これこそが心を豊かにしてくれるのでは無いでしょうか?デイセーリングから外洋の旅まで、あらゆる処にロマンが満ちてます。それを見出すのは理屈では無く想いだと思います。

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