第五十四話 自分のスタイル

   
   

マリーナから出航してセールを上げて思う方向に走ってマリーナに戻るという基本的な操作は必要ですが、これはそう難しいものではありません。その次に必要な事はどういう遊び方をしたいのかです。ただクルージングをしたいというのでは無く、一緒に乗れる友人や家族、それも一時的では無く長く付き合ってくれるかどうか? 近距離の旅か長距離か、或いはレースしたいとか、セーリングそのものを楽しみたいとかいろいろ遊び方はあります。書斎として使いたいでも良いんです。

経験が無い方は解ら無いという思うかもしれませんし、それでもレースはしないからクルージングだとか言われる方も多い。しかし、そこを大雑把なままにしておくとそのうち動かないヨットになりがちです。それで、先々どんなスタイルになるかは別にしても、まずは近場をできるけ回数多く乗る事をお薦めします。ピクニックでも良いんです。家族や友人を誘う。いつも来るのかたまになのか、そんな事を繰り返していくと、どれだけ来るのか来ないのかも解ります。

しょっちゅう乗りますと風が弱い時もあれば強い時もある。いろんな状況に遭遇し自分がどう感じていくかも解ります。そんなこんなを繰り返していくと、どういう時に自分自身が楽しかったり、面白かったり、恐怖を感じたりでもそんな恐怖でもまた何とかしたいという気持ちが湧いてきたり、いろんな状況にいろんな自分の反応が解ります。重要な事は様々な環境において自分がどう感じていくのか?その経験を通じて自分の好きなスタイルが必然的に生まれてくると思います。頭の中で考えた時はあれもこれもとなっていたのが、実際の経験を通じて具体化されてくると思います。それが本当の自分のスタイルを創る基になると思います。

だからまずがピクニックをしましょう。何度も、何度も。そこから発展させていく。そんなこんなの中で知識も技術も上がっていきます。そのうえで旅をしたくなったらまずは近場への旅から始めて、セーリングをしたくなったらデイセーリングを、レースに出たくなったら出れば良い。何度も何度もやります。そうしたら、また自分が何を感じているのかを意識していけば、また次の発展が必然的に見えてきます。

つまり、まずは目の前の海で何度も乗る事で自分のスタイルが見えてくる。という事でピクニックを何度もやりましょう。但し、ただ漫然とピクニックするだけでは無く、自分が何を感じているかを意識しておく事が大事なのではないかと思います。何もより遠くへ旅する事が近場より価値が高いなんて事はありません。強風でも乗れる事が偉いわけじゃない。自分がどう感じているかが重要です。遠くに行きたかったら行けば良い。強風でも乗りこなしたかったらそうすれば良い。ただそれだけの事です。自分が楽しんで、面白くなくちゃ意味が無い。

ネットで一緒に乗る方を募集してしょっちゅうピクニックしている人が居ました。毎日ヨットに来てはメインテナンスしたり新聞読んだりしている人が居ました。ヨットで釣りしてた人も居た。ローカルのレースを楽しむ人も居た。湾内から出た事無いけどしょっちゅう乗っていた人も居た。宴会ばかりの人も居た。また、あるオーナー、ヨットは滅多に出さずに船内をいわゆるオーディオルームとして使っている人が居ました。船内にはかなりクオリティーの高いステレオシステムを搭載し、コーヒーを楽しみながら好きな音楽を鑑賞する。私も何度かコーヒーを御馳走になりましたが、こんなスタイルでも良いんです。船内でかなりボリュームを上げても案外外には音がそうは漏れない。

どんなスタイルだろうと自由です。楽しければ、面白ければ良い。それが基本になければならない。遊びなんですから。でも、乗らないというスタイルのオーナーが実に多い。これも何らかの楽しみがあるなら良いんですけど? でも、乗ればこそいろんな事に気づきます。メインテナンスもしたくなる。乗らなきゃ何も解りません。人は自分の周辺で何が起こっているかに注意を払います。しかし、その半分ぐらいの意識を自分自身、何を感じているかに注いでいった方が良いかと思います。


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