第二十七話 デンマークからのゲスト

あるオーナーはインターネットのホームページを作って、一般の方々でヨットに乗りたい方
はいつでも歓迎されています。その反響は大きく、日本全国から随分たくさんの方々が
乗りに来られます。また、ヨーロッパからもホームページを見て、日本に観光にきた方々
が福岡に立ち寄って、このオーナーを尋ねてこられました。私も時々同乗させてもらって
いますが、ヨットに乗りたい方々がこんなに多い事に嬉しく思いますし、インターネットで
探して、よく来られるものだと感心します。

ある時、確かデンマークだったと思うのですが、身体障害者の方々を10人ぐらい引き連
れて来られた事があります。なかにはかなりの重度の方もおられましたが、もちろん付き
添いの方々がおられ、一緒に乗りました。確かに、介助は必要なのですが、その他は
接し方が全く普通の方々と同じように接される。変な気遣いが無いのです。この時、結構
時化ましたので、やめようと思ったのですが、先方は、構いません。大丈夫。そうやって
ヨットを出したのです。彼らは、時折悲鳴のような声を上げて、でも楽しんでいるんですね。
もちろん、遠くへは行きませんが、風や波を楽しんでいる。穏やかなセーリングだけが
セーリングでは無い。時には大きく揺れる。でも、それをギャーギャー言いながら楽しんで
いるんです。こちらの方が心配になってくる。でも、引率者は平気な顔。この違いは何だろ
うかと思ったものです。ちょっと時化ると辛い感覚だけが残る。でも、彼らは、それさえ楽し
んでるんですね。しかも障害者の方々なのです。平気なはずはありません。悲鳴は上げる
でも、次の瞬間にニコニコしてるんですね。まるでジェットコースターを楽しんでいるような
感覚でしょうか。ジェットコースターは怖いけれど、大丈夫という感覚がある。だから、恐怖
を楽しめる。ヨットも安全なんですね。安全だと解っているから、楽しめるんだと思います。
別に外洋に出てるわけではありませんから。

我々もこれを見習いたいです。安全は大切な事です。その為の準備はちゃんとします。整
備も怠り無い。その上は楽しんでしまう。ヒールを楽しみ、風を楽しみ、波を楽しむ。この
楽しむという感覚が我々日本人には少ないような気がします。

先日も女性3人が乗りに来られました。3人とも全く初めてのヨット。穏やかで、適度な風、
さわやかさを絵に描いたような、心地良さ、こっちも少し眠くなってくる。こういう穏やかな日
は本当に心地良いし、良いなと思いますが、こういう時ばかりではありませんし、また、逆
に、こういう時ばかりなら、退屈になってくる。変化が無くなってくるんですね。だから居眠り
するか、おしゃべりするかになってくる。これがいけないわけではありません。良いのです。
でも、いつも同じなら面白く無い。この日は、帰りがけに結構風が強くなってきました。俄然
面白くなってきたものの、セールが延びて、丸くなる。大きくヒールするので風を逃がす。
せっかくなチャンスなのですが、セールがいけません。結局ジェノアを巻いてしまいました。

楽しいという状況が、穏やかなセーリングにあると思っているのなら、ヨットに乗る日はそう
多くは無いでしょう。でも、デンマークの人達のように、楽しんでしまえるならチャンスは多い
そうする為に必要な事はヨットの整備、そして適切なセールです。それらをきちんと整えて
さえいれば、ヨットはもっともっと快適に走れる。それが解れば、安心です。安心感を持てば
少々時化ても大丈夫という気持ちが出てきます。すると、彼ら、デンマーク人のように、もっと
楽しめるのではないでしょうか。穏やかな日だけが楽しいと思うから、乗るチャンスは無い。

何故彼らの国には多くの、日本の何十倍ものヨットが存在するのかが、少し解ったような気が
します。時間があるかないか、それもあるでしょう。でも、根本的に違うのは、楽しむという
キャパシティーが違う。強風さえも楽しんでしまう。変化があるのが楽しいのであって、穏やか
な海だけが楽しいのでは無い。そして、それをする為に、楽しめるように、整備をし、経験を
積み、ヨットを知り、ヨットを自分の物にする。

セールが延びきってますよ。それでも良いでしょう。破れるまで使う。でも、それがせっかく買っ
たヨットの楽しみを減少させている事に気づくべきです。ちゃんとしたセールなら、もっと面白い
のに、という事は良くあります。風が強いから乗らない。では無く、乗れるように整備していけば
もっと面白い経験ができる。自分の楽しむ範囲を広げていかなければと思いました。結局、
彼らが言う時化と、私が思う時化の度合いが違う。それは時化ではなかったのです。少し強い
風と少ばかり大きな波だった。楽しめないほど恐怖におちいるような状態ではなかった。それだ
けです。でも、この違いは大きいです。

いかがでしょう?穏やかな日だけが楽しめると思っていませんか?キャビンライフが楽しいと
思っていませんか?どこかに行く事が楽しいと思っていませんか?楽しいのそれらだけでは
無いのです。自分さえその気なら、もっともっと楽しめる。危ない事をしろとか、挑戦的な冒険
をしようとか言っているわけでは無いのです。ヨットを知り、少しづつ自分の範囲を広げていく。
目の前の近場でOKです。そしたら、もっともっとチャンスは広がる。ヨットにテレビや冷蔵庫を
設置して、そういう物には大枚をはたきますが、肝心のセールは古いままというヨットは実に
多い。それでは遊びのキャパシティーは広がらない。快適なのと、エキサイティングは別です。

実は来週も女性が4人来られます。インターネットはすごいですね。それにウーマンパワーも
すごい。我々も多いに悲鳴を上げて、そしてそれを楽しんでしまいましょう。

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