第五十九話 価格の意識

あのヨットは高い、このヨットは安い。そんな風に考えますが、何を基準に高い安いを考える
かというと、自分達が持っているヨットの相場の価格を基準にします。日本におけるヨットの
基準価格は最も安い所になるようです。そうすると、殆どのヨットは高いものになってしまう。
安いヨットは今では何でもかんでも標準装備されているので、これ以上のヨットはなかなか
入りにくい事になります。現実、そうなっています。ところが、モーターボートの相場は高く、
40フィートで6000万とか7000万とか、そういう価格が当たり前で、しかも、品質の追求も
ヨット以上にある。最も安いボートなどは初心者以外はあまり見向きもされないという状況に
あるようです。ところが、何故か、ヨットは品質を追求する向きが少ない。

パワーボートでは、ある程度遠くへはすぐに行けます。すると、かなり波の高い状態などに
出くわすと、良いボートとそうでは無いボートの違いがすぐに解る。凪の状態なら、どんなボ
ートでも快適に走れるのですが、一旦、波が高くなるととたんに走れなくなるボートがありま
す。こういう場面にでくわしますと、いかに違いが解り、良いボートがほしくなる。この点、ヨッ
トの場合、走れなくなるという事は無い。乗りやすさや安心感、体力の消耗具合、そういう苦
労の度合いによるあいまいな差が出てきますが、あいまいなので明確には解りづらいという
事があるのではないかと思います。こういうあいまいさは、乗り比べて初めてわかるような
もので、端から見ていては解らない。こういう事が、その品質の違いをあいまいにしている
理由ではないかと思います。あきらかにスピードの違いなどに出てきますと、明確に解るの
ですが、ヨットの場合は感覚的なものが多いので、解らないのかもしれません。安定感や
安心感などは、数値では表せない。

でも、良いヨットに乗りますと、確かに違います。それで、予算の限り大きくするという考え方
より、ひとサイズ抑えるかわりに、その分良いヨットにするという考え方はいかがでしょうか?
良いヨットというのはコンセプトさえきちんとおさえておけば、そのコンセプトにおいて、確かに
違いが出ます。ただ、難しいのはこれを言葉では明確に表現できないのが残念です。

安くて何でもついているなら、その分、造りにお金がかかっていない。お金をかけてというのは
船体の材料や工法、職人のレベルも違うのですが、そういう違いはヨットが古くなればなるほど
明確に出てくる。でも、新艇時には、余程慣れないと解らない。長くは乗らないとしても、乗って
いて違うものは違うのです。あいまいな表現しかできないのが残念です。

しかし、それを解る為には乗らなければ解らない。乗ってセーリングして、いろんな場面に遭遇
しなければ解らない。乗らないなら何でも良いわけですから。形さえあれば良い。でも、真剣に
乗ると解ります。ヨットを真剣に乗っていただきたい。そうすれば、違いが解るし、面白くもある。

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