第四話 GH 26

これまでの流れ、アレリオンと全く同じコンセプトです。クラシックデザインと最新のセーリング
性能を融合したものです。ただ違うのは、このヨットはセミカスタム、或いはカスタムでの建造
となっています。つまり、船体モールドによるFRP建造ですが、その他はオーナーの好みで
オーダーできるというものです。また、木造による完全なカスタム建造もできます。

この事はいかに職人の技術レベルが高いかを物語っています。オーナーの要求に対して、適
切なアドバイスができて、それを可能にする知識と技術がなければ、こういう事はできない。そ
れに大変な労力が要求されます。また、こういう工法をやりますと、量産ができないんですね。
一艇にかかる時間は相当なものです。恐らく、相談し始めて完成には1年ぐらいかかります。

他の造船所でも経験しましたが、こういうやり方は資本主義の儲かるという次元で言えば、儲か
らない。こういう建造は年間一桁の数しか建造できません。つまり、そういう次元では仕事をして
いません。彼らは、ひたすら良いヨットを建造したい。それしか無いんです。以外とアメリカには
こういう職人気質の人が結構居ます。儲かる為には、工期を短くしてたくさん売る方が良い。我々
は良いヨットを作りたいんだと言います。

それはそれは素晴らしいヨット作りますよ。すごいです。裏の裏まで非常に丁寧できれいです。
当然ながら値段が高いです。この26フィートにして、まあ、2000万ぐらい行きますね。日本では
考えられないかもしれませんが、アメリカにはそういう人達が居ます。ヨットでは無いんですが、ある
スポーツフィッシャーマンというトローリング用のボートをカスタムで建造したオーナーが”自分のボー
トを指して、俺は5年も待って手に入れた”と自慢していました。フロリダの高級マリーナには、こういう
カスタム艇がずらりと並んでいました。通常、我々が知っているプロダクション艇はこのマリーナには
一艇もありませんでした。さすがに、すごいなと感心したものです。日本では、こういう事は稀ですが、
アメリカではこういう人達が超高級艇を支えている。逆に言うと、こういう職人を育てているとも言えます
日本では、船大工さんが殆ど居なくなってしまいました。食えないからです。どんな技術があっても、
食えなければ廃業するしかない。でも、アメリカにはたくさ居ますし、そういう学校もある。この学校には
世界中から習いに来るそうです。私もある日本人の方で、この学校を卒業し、アメリカの造船所で修行
を積んだ人から相談を受けた事があります。日本に帰って、自分の技術をいかした仕事がしたい、との
事でした。どこか紹介してほしいと言っていましたが、残念ながら、紹介できませんでした。彼はまだ
アメリカに居るでしょう。これは仕方の無い事です。

このヨットは日本に1艇もありません。まあ、当然でしょうね。でも、ひょっとして、いつか、と思って、やっ
てます。我々業者としても、大変かもしれませんが、こういうヨットを売ってみたいと思うからです。造船所
ばかりが手間を食うわけではありません。こういうヨットを扱うと、業者もかなり手間を食います。この打ち
合わせだけでも、1度だけ他の艇で経験しましたからわかりますが、半端じゃありません。でも、その分
良い経験ができます。まあ、これはビジネスとは言えないかもしれませんね。

この造船所のオーナーはヒンクリーという名前です。ヒンクリーと聞けば解るでしょう。あのヒンクリーです
ただ、ヒンクリーの三男坊で、ヒンクリー社とは別です。小さい頃からヒンクリーヨットに親しんできた彼が
自分で造った造船所です。何となく想像できるでしょう?彼は、メインテナンスの本も出しています。ヒンク
リー流のメインテナンス術です。私も御近づきのしるしとして、一冊いただきました。まあ、これも高そうな
本でしたが、写真と図面入りで、解説されています。

過去に数回、商談がありました。でも、結局は駄目でしたが、日本でも2000万ぐらいのヨットは珍しくも何
とも無いのですが、何しろ26フィートですからね。でも、引退するまでに1艇ぐらい売れれば良いなと思って
います。そういうヨットです。何の参考にもなりませんね。済みません。

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