第八十九話 キャビンで立てない

小さなヨットはキャビンの天井が低い。真っ直ぐ立てない。だから人気が無い。21フィートでは
座れば良いが、立つ事ができないので、誰も見向きもしなくなった。それで25フィートで、真っ
直ぐ立てる、それに個室トイレがある。これが最低限になってきた。キャビンで立てないのは、
どうもお気に召さないようである。

そんな中で当社取り扱いの、ノルディックフォーク、アレリオンはおろか、M36でさえ、真っ直ぐ
は立てない。それから以前紹介したJ100も同様であるが、これらはみんなキャビン内で真っ直ぐ
立つ事ができない。欧米人のでかい体の人達にとっては、日本人以上に不自由なのでは、と思
う。が、しかしながら、そんな事をものともせずに売れているのは何故か。

これらのヨットはみんなシングルハンドのデイセーリングをコンセプトに、クラシックなデザインをし
ている。実際、デザイナーに聞くと、このサイズで真っ直ぐ立てるようにしながら、かつクラシック
で美しいラインを保つ事はできないという。それに、もうひとつ重要な事はスタビリティーにある。
シングルハンドで乗る時、スタビリティーの高い、つまり重心の低いヨットはありがたい。実際
この差は大きい。

性能、居住性、美しさ、この三つの要素を考えた場合、シングルハンド、デイセーリングという
コンセプトから重視するのは性能と美しさという事を重視した。居住性はそれ程重要視していない。
これで居住性を重視して、キャビン天井を高くすると、重心が高くなる。そのマイナスの方が大きい
と考える。それに美しさもそがれる。これには多いに賛同したい。ヨットは美しい方が良いし、居住性
を確保する為に犠牲にしたくは無い。性能と言っても、速いか遅いかという簡単な物ではない。シン
グルでセーリングする時の、操作性全て、乗り心地をもさす。

これにもっと居住性を求めるなら、天井を高くせずにサイズをアップするしか無い。でも、サイズをアップ
すると、操船がしんどくなる。一部のヨットにはこれらを考慮して、いろんな工夫もあるが、一般的には
かなりしんどい物になる。

そりゃあ、キャビンが大きい方が良い。でも、操作性が良い方が良いし、美しい方が良い。これらは矛盾
してくる。どれを重視するか、シングルのデイセーリングなら、居住性より性能を重視したい。美しさは
どんなヨットにも求めたいが、サイズの割りに大きなキャビンというのは、美しいとは思えない。これは
車にしても同じだが、どんなサイズだろうが、乗りこむ人間の大きさが縮むわけでは無いので、それなり
の高さを確保する為には、サイズが小さいとずんぐりむっくりにならざるを得ない。

キャビンに住みたくも無いし時々泊まるぐらいなら、天井は低くても構わない。実際、そういうヨットに乗って
いる人達に聞くと、セーリングが実に楽しそうだ。長期滞在型で無いかぎり、本当はそんなにキャビン重視
する必要性は無いように思えます。ソファーに座ってしまう限り、何も不自由しないし、それより、セーリング
していて、何とも面白い。面白いのは、性能が良いからと言っても過言では無いと思う。ヨットに乗って、多少
の不便さは我慢できるし、嫌、我慢しているわけでも無い。不自由しないのです。それでいて、セーリングに
充実感を感じられる、面白い、快走できる、自由自在、そういう感覚を楽しむ方がはるかに良い。そして、美し
い姿を自由自在に操る。

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