第三十二話 ヨットの使い方

人それぞれで、ヨットをどんな風に使うかはオーナーの勝手ですが、いろんな使い方がある
とはいえ、最もヨットを堪能できるのはセーリングに他ならないと思います。先日、ニュージ
ーランドから来ている夫婦に出会って話しをしていたところ、彼らはまだ数週間の日本滞在
ですが、マリーナでみんなを見て、違いを感じたようです。別に良いとか悪いという問題では
無く、違うという事です。

ニュージーランドでは風がある時、今日は面白いと、こぞってみんなセーリングに出る。そし
て風が無い日は今日は駄目だと、マリーナでのんびりしている。日本で見た彼らの光景は
その反対で、風が強い時はみんなマリーナに居て、風が無い時にみんな出ている。そう
見えたそうです。結局、風に対する感じ方が違うし、セーリングに対する考え方も違うようです
それに、自分のヨットのメインテナンスを自分でする人は非常に少ない。みんな業者まかせで
どんなにお金持ちだろうが、外に出れば自分でしなければならない。それなら普段から自分
でして、知っておく方が良いのでは、こうも言っていました。多分、礼儀をわきまえて、良い悪い
という事では無く、違うという言い方でしたが、ここに基本的にヨットに対する姿勢の違いがある
と思います。

確かに、時間という問題もあるでしょう。でも、ヨットやるからには、できるだけ自分自身が少な
くとも自分のヨットだけは知る必要があるでしょう。そのうえで、もっと積極的にセーリングをして
いけば、自分のヨットが解っているだけに、いろんな場面でも対応ができる。知る為にもセーリ
ングが必要ですし、そうやってセーリングしていけばもっと面白いという事にも気づく。風が吹い
たら面白いと思うか、危険と思うか、もちろん無理はいけませんが、自分の面白いと感じる範囲
を少しでも広げていけば、それだけ面白さは人の何倍にもなるでしょう。

場面、場面での楽しみ方、それに応じて臨機応変に楽しむ。確かに風が無い時はヨットはいか
んともしがたい。それで、風が無い時はメインテナンスするか、コクピットで過ごすか、それも良し
風がある時はどんな風にセーリングを楽しむか、程よい風の時だけがヨット日和と考えると、実際
そういう日で、しかも休日という事はなかなか無い。それで、その日の場面に応じて、できる事を
楽しむというのが良いようです。欧米人のように、ヨットに来て読書でもする。そういう事も楽しめ
れば良いのですが、日本人にはなかなかそうも行かない。何も欧米人のマネをする必要も無く、
自分に合った楽しみ方をすれば良いと思います。

それで、日本人に合う楽しみ方というのは、デイセーリングが最も合うと思うのです。時間が無い
ならデイセーリングです。しかも、漫然とセーリングするのでは無く、いろんな操作をしてセーリン
グを楽しむ、自分のヨットでより速く、よりスムースに走る。そういうセーリングがお奨めです。
その為に風向風速計とスピード計を設置して、その目安を明確にする。そうすると、自然に目標
的なものが出てくる。今までのセーリングの記憶が明確に数値でわかりますから、そういう目安
を持ってセーリングする。するとセーリングはぐんと面白くなると思います。

速く走ろうと努力するのはレーサーというような固定観念は捨てた方が良い。例え、重いヨットで
あろうが、吹けばよく走るし、他のヨットと比べだしたら、キリが無い。あえて競争するなら、自分
の過去の経験と競争すれば良い。以前よりうまくなった、以前より速く走れるようになった、そう
いう事でスムースな動きや、より詳しい知識や、そういう進化を楽しめば良い。

自分の家でだら〜っと過ごすのはできますが、ヨットに行って、だら〜っと過ごすのは日本人には
向かないと思います。何かをしに行くという事でヨットに行くのですから、何かをしたくなる。セーリ
ングしてもだら〜っとセーリングするより、もっと意識的にセーリングする方が合っている。日本人
は無目的にだら〜っとしている事は苦手ではないかと思うのです。だから、目的無しで過ごす事
ができない。それでいて、だら〜っとセーリングしている人が多いので、どこかで上陸して飯でも
食わないと行った気にならない。それでだんだん近くばかりだと飽きてくるので、遠くに行きたく
なる。でも、現実は時間が無い。

つい最近、ヨットを始めた方と一緒に乗りました。セールを上げる所から、舵の扱い、タックの仕方
そういうひとつひとつを非常に緊張しながら、時には戸惑いながら、でも、非常に楽しんでおられた
誰でも、最初はこうだったと思います。初心者の頃は早く慣れたいと思って、いろいろ知ろうとされる
そういう時は非常に楽しかったのではないかと思うのです。ところが、一旦、慣れてしまうと忘れて
しまう。知らない事を知り、上達しようとしていた頃は楽しかった。それなら、そのままもっともっと知って
上達しようと思えば、づっと楽しめるのではないでしょうか?プロになるわけじゃないと言いますが、
もちろんそうですが、深いヨットはとことんやってもなかなかプロにはなれないし、なる必要も無いが、
いつも上達しよう、もっと知ろうと思う意識は、その分面白いという代えがたいプレゼントが与えられる
だから、ヨットを楽しむにはへたでも良いのです。うまいかへたかの問題では無く、うまくなろう、知ろう
という意識の問題だと思います。

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