第四十七話 何が違うのか

時化た時にはいろんな事が解る。古くなった時にもいろんな事が解る。しかし、何でも
無い時には何も解らない。

人はいざという時に本性を現すと言いますが、ヨットも同じです。何でも無い時は、どん
なヨットなのかは解らないものです。でも、いざ、強風に遭遇した時には、途端にその
本性が現れてきます。ローリングが激しい、ピッチングが激しい、船体剛性が弱い、そ
ういうヨットでいざ時化られると非常に恐怖感を感じる。でも、すぐにどこかが割れて
沈んでしまうなんて事は無いが、徐々に進行している。見えないところで。

ハルとデッキの接合の仕方、これは構造的なものもあるが、その設置方法もある。そ
れによっては非常に弱いもので、ボルト/ナットを使わず、タッピングを使っているのも
ある。これだけで作業効率は格段によくなるのだ。

船底にあるストリンガー、これもパテだけで接着しているものがある。これなど、いずれ
は剥がれてしまう。内装に使われるバルクヘッドもしかり、つまり、船体、ストリンガー、
内装家具、これらが一体にはならず、別々の役目を別々に行い、一体となって船体
剛性を高める役目を全く果たしていない。これらは、何故そうなのか、作業効率が格段
に良くなるからです。

しかしながら、ユーザーが強度を求めていないとしたら、それで良いわけです。

一方、ストリンガーを船底にラミネートし、バルクヘッドをラミネートし、全体の剛性を
高めて建造しているヨットもある。こういうヨットは船体がしっかりしているので、時化た
時にその違いは歴然と出る。人間の感覚は案外正しい事もあり、恐怖感を感じなかっ
たり、安心できると感じたりするものです。

昔は強いヨットと言えば、重いヨットとなりましたが、今ではそうでも無い。ハイテク素材
もあるけれど、工法、構造、そういうもので剛性の高いヨットもある。でも、こういうヨット
はたいてい作業効率が悪い。手間がかかる。

こういう構造的な物、工法、そういう物はたとえハードに乗らないにしても、やがては
船体のねじれがあっちこっちの不具合を起こす。安心して乗れないのに、おまけに
ぶっ壊れてしまう。結局高い買い物につく。でも、ユーザーが求めていないならそれで
良いという事になる。

車が走る道路とは違って、海は昔から同じで、舗装された道路を走るわけでは無いの
で、やはり強いヨットの方が安心できる。時化た時に乗らないにしても、途中で吹いて
きたり、帰りに吹いたり、そういう事はしょっちゅうある。ちょっと吹いただけで乗りにく
くなるヨット、逆に面白くなるヨット、それは安心できるか、恐怖を感じるか、その違いか
ら生まれる。ヨットは昔と比べて、大量生産できるようになったかというと、建造艇数は
昔の方が多かった。

今は住む事やパーティーボートというジャンル、セーリングをするジャンルと分かれてき
たのではないかと思う。本気でセーリングすると、いろんな状況に出会う。ならばそうい
う前提に造らなければならない。そして、選ぶ方も同様、パーティーをするのか、セーリ
ング主体なのかを考えなければならない。

車の性能は良くなった。でも、道路も良くなった。だから、通常の使用においてはあまり
感じないが、時速100数十キロを超えていくと、違いが出る。舗装されていな道路を
延々走ると解るだろう。でも、日本にそういう道路はあまりない。でも、海はそうは行か
ないのです。

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