第四十九話 職人

イタリアには良い意味での手工芸というものがある。ブランド品などは典型だろう。
そのブランド品は世界に渡り、あのフェラガモはフィンランドのナウタースワン社を
買収した。スワンはイタリアのものなのです。そうだろう、最近のスワンのデザイン
はちょっと変わってきている。

フェラーリは超有名だが、他にもある。自転車、職人が作り上げる自転車は高い
物になると100万を超えるらしい。いずれも、職人の技が世界に主張している。
いずれも大量生産では無いので、その会社が大会社になる事は無いのだが、
大量生産しようという気も無いようだ。日本の職人はなかなか生き残るのが難しい
良いものを造っても、需要が極端に少なかったりする。日本の文化が、西洋文化
を取り入れ、便利さを求めるようになると、どうもかつての工芸品はそれに矛盾
するようだ。

イタリアは古い物を大切にする。ありがたがる。同時に斬新なデザインも起こす。
古い物を大切にしながら、新しい物がはいってくる。考えてみれば新しい物は、
やがては古い物になる。建物は数百年前に建てられたが、内部は非常にモダン
なんてものがある。建物は何百年も使えるので、その分の費用が他に回せるのか
もしれない。世代ごとに家を建てるなんて事は考えられないのである。

生活は便利な方が良い。でも、一応生活ができるなら、特に遊びなら、便利な物
より面白いとか、美しいとか、感性をくすぐる物が良い。生活は合理的な方が効率
は良いだろうが、遊びとなると、合理的に遊ぶというのは楽しいかどうか解らない。
イタリア人は多分感性の割合が大きいのだろう。そこに職人の技が光る。

多分、大量生産で、便利なグッズを造らせたら日本人にはかなうまい。その品質
管理の素晴らしさ、社員全員が一致して完成度を高めようとする。しかしながら、
少量生産で感性に訴えるものは日本ではかつてはあったがもう生きられなくなって
しまった。素晴らしい職人の技術、後継者不足、それらは経済優先という主義から
すると、実に不効率である。でも、心はそういう物を求めているのではないか。

ヨットに関して言うと、大量生産艇、少量生産艇がある。大量生産艇は経済効率を
目指す、そして少量生産艇はもちろん経済を無視できないが、まだまだ手造りの
部分が多い。前者は価格が安く後者は職人の手が入っている。安いのも魅力だし、
職人の技も魅力だ。遊びは感性なので、後者の方がはるかに魅力的だろう。
でも、少し高い。誰だって、安く大量に作れば、たくさん売れて儲かる事は解っている。
でも、そうしない人達も居る。イタリアのコマー社は大量生産には移行しないと明言し
た。それは良い事だろうと思っています。大量生産は他にまかせて、こちらはこちらの
道を行く。

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