第五十六話 輸入ヨット

ヨットの輸入をしていますと、まあ、いろいろあります。納期は遅れるのは驚きません。
部品が不足しているとか、或いは、輸送途中で部品が盗まれるとか、そういう事もあり
ます。日本人の見る目はシビアーですから、いろんな細かい所に気づきます。向こうは
あまり気にしないのでしょうか?海外では新艇は完全では無い。そこで、1年くらいかけ
て整備していく。シェイクダウンという言葉があるくらいで、それで、そういうヨットは中古
でありながら新艇より高い。そういう事かもしれません。一方、日本では新艇が最高の
状態とされますから、値段は下がらざるを得ない。極端な話、進水した翌日に売りに出
しても、ド〜ンと下がります。

いろいろある輸入ヨット、それを、こちらにきて整備します。不足部品を調達し、緩んだ
ねじを締め、一通りのチェックをして調整、引渡しとなりますが、まあ、輸入時、何にも
無いという輸入艇は皆無に近いと思いますね。日本の感覚から言うと、なんで?と言い
たくなりますが、見る視点と言いますか、何かが違うようです。海外の人達も完璧で、壊
れない方が良いにきまっています。でも、やはり何か、魅力という面では輸入艇が良い。
ドイツのベンツだって、トラブルは一杯と聞きます。でも、魅力あるんですね。

国産はトラブルを避ける為に無難な道を行くという感じがします。別にヨットの事を言って
いるわけではありません。一般的にです。でも、お利口さん過ぎて、面白味にかける。
個性が無い、そんな気もします。これが業務用に使う物なら、魅力は後回しですが、遊び
という事からすると、魅力が必要です。例えば、頑丈さを言う場合、必要最低限の頑丈さ
と必要以上の頑丈さ、使って支障は無いのですが、でも、フィーリングが違うとか、そこ
から安心感が違うとか、とにかくある部分において突出した個性を持っている。そこに出
会った時、平均的な物より魅力を感じてしまう。ヨットは遊びですから、この魅力は非常に
大切です。日本人では選ばないようなカラーリング、ひとつひとつを取れば、何だこりゃ、
になるんですが、これが実際セットされ、全体を見ると実に良い。こういう事もあります。

輸入ヨットもピンキリですが、日本人にはどうしても真似のできないデザインであるとか、
これでもかというくらい頑丈であるとか、いいかげんな所があるかと思えば、さすがと思わ
せる部分もある。このいい加減さは整備していくとして、やはり基本的には輸入ヨットの方
に魅力を感じます。良いヨットは、細かい部分で難はあったとしても、基本的に良い。そう
思います。全部とは言いませんが。

何年も前ですが、あるF1ドライバーが市販の車をテスト走行しました。日本車はエンジン
馬力はみんな大きい、それに比べて、外車はそうでも無い。でも、車体の剛性、ブレーキ
の効き具合、そういう点においては外車が上でした。今はどうかは知りませんが、少なく
とも当時はそういうレポートを読んだ事があります。つまり軽く200kオーバーが出たと
しても、総合的にカーブ切ったり、ブレーキの制動力なんかを考慮すると、外車に軍配が
上がっていた。こういうのに、日本人の極め細やかさがブレンドされると最高なんでしょう
が、世の中、そうはいかんのです。

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