第八十三話 トラブル

トラブルは誰でも嫌なもんですが、反面、トラブルは我々に考える事を強制し、そこから
新しい何かを学ぶチャンスでもあります。オーナーは自分の体験から学びますが、業者
は多くのオーナー達から学びます。オーナーがトラブルに見舞われる度に、我々に修理
の依頼がありますので、各トラブル毎に学びがあります。

トラブルの中で最も多いのがエンジン関係だと思います。冷却水の漏れ、オイル漏れ、
燃料系統、エンジンについて詳しく知れば知る程良いに決まってますが、本格的に勉強
すれば良いのですが、そう簡単ではありません。それでも、基本的な事ぐらいは知った
方が良い。

エンジンは海水冷却です。海水をくみ上げて、エンジンを冷やして、外に排水する。誰
でも知ってる事ですが、どのバルブから入って、フィルターを通って、そしてどこ通って
また外に出るという経路を知る。そして各部にわずかでも水漏れが無いか、これを時々
チェックしておく必要があります。このわずかな漏れがエンジンを錆びさせ、次のトラブル
を招く事になります。それとエンジンの設置位置が海水面より低い場合、エンジン停止
時にサイフォン現象によって、海水がエンジンに逆流する場合があります。それで、エン
ジンから排水されるホースにエアーベントを設置しますが、これが案外ついていないヨット
があります。エンジンが回っている最中は排水圧があるので良いのですが、カットした時
エアーベントから空気が入り、サイフォン現象を防ぐのですが、これが無いと、海水はエン
ジンに入っていく場合がありますので、恐ろしい。実際、エンジンを駄目にしたヨットがあり
ます。冷却水に関しては、後はフィルターの詰まり、インペラ破損、こういうケースが多い
です。

オイルは重要です。定期的に交換しておいた方が良いです。それに漏れているのが時々
ありますので、これも日頃チェックしてください。

燃料系統ですが、これは古いヨットには実に多い。オーナーが日頃短時間でエンジンを使用
するには支障は無くても、ちょっと遠出でエンジンを長時間回すと、かなりの率でパイプが
ゴミで詰まり、悪くすればエンジン停止となります。こうなる前にはたいて、エンジンが時々
回転が落ちてきたり、息つくようになります。エンジンが停止しても、しばらく待って、かけると
またかかる。そしてまた停止、そのサイクルがどんどん短くなっていく。しまいにはアウトです。
これは燃料タンクの汚れ。ところが、燃料タンクは内部を簡単に洗えるようになっていない。
でも、やるしかありません。エンジンが停止すると、吸引力があって、でも燃料が来ないので、
ホースの繋ぎ目からエアーを吸う事もよくあります。そうすると、エアー抜きしないと再びエンジン
はかからないので、要注意。

燃料に水が入っている事もあります。でも、油水分離器があると、これを分離してくれますので、
時にはチェックして下さい。水が入る原因ですが、燃料の入れ口が大抵はデッキにあります。
もちろんパッキンがついてますが、時々ウィンチハンドルで回せるタイプがあり、つい締めすぎ
てパッキンを傷めてしまいますので、要注意です。それで雨水が入ってしまう。油水分離器が
一杯になってもそのままですと能力限界を超えますので、水がエンジンに入って、アウトになり
ます。以前、先週まではエンジンかかっていたのに、今日はかからない。とりあえずそのままに
して数週間後、修理依頼が来ました。油水分離器は水満タン、エンジン内部は完全に錆びてい
ました。ちょっとした注意が大きな出費を防ぎます。

トラブルは結果は同じでも、原因は様々です。基本はエンジンをきれいに、エンジンルームもピ
カピカぐらいにきれいにしておく事でしょう。これで、何かもれたらすぐに発見できる。これで、
トラブルに対する大きな出費をかなり防ぐ事ができます。メインテナンスの基本は誰にでもできる
掃除です。風の無い日は、掃除の日。

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