第十六話 夢と現実

夢を売る商売だと言われます。ヨットを買うんではない、夢を買うんだと言われます。
その点、私がこれまで書いてきた事はことごとくその夢を壊している。とも言われます。
でも、こういう場合、多くは、買った後より、どれが良いか考えているときの方が楽しか
ったという事になりはしないか。それで良いんだろうか、とも思うわけです。

家族でクルージング、日本一周という夢は実際それをやると、夢では無くなり現実になる。
夢は夢として楽しむ。けれども、我々は現実に居る。現実の方がもっと楽しかったら、そち
らの方が良くはないですか?買う時にどれが良いかと楽しんだより、買った後の方がもっと
楽しかったら、そちらの方が良いのではないでしょうか。まるで、バーチャルな世界と現実の
世界の違いのようで、バーチャルには楽しさがある。でも、現実には楽しさ以上の感激があ
る。と思うのです。その現実で感激するには、行動を伴わなければなりません。行動を伴う
感激はバーチャルの比では無いと思うのです。

日本一周を否定しないし、家族でクルージングも否定しません。どんどんやれば良いと思い
ます。でも、暇が無い人はできないし、家族が来ないというなら無理矢理引っ張ってくるという
わけにもいきません。それで、夢は夢として、目標として持っていながら、日常は今できる事
を楽しむのが良いと思います。お父さんが日常に楽しみ、感激している事がやがては目標と
する夢を実現する事になる。夢を追い、今楽しんでいないなら、夢は永遠の夢として終わる
のではないかと思うのです。

今を楽しむ最大の方法はセーリング自体を楽しむ事ではないかと思うのです。セーリングは
非日常の最たるもので、それを現実に体験していく、楽しんでいく事ができれば、そこから
世界は広がる。偶然暇ができたら、ちょっと遠出も可能になるし、もっとたくさんできたら、
日本一周だってできる。お父さんがそんなに楽しいなら、家族だっていつかは来るようになる。
それをあえて名前をつけて言うならスポーツセーリングだと思うのです。スポーツという名前
をつけると、ある一定の情景が浮かぶでしょう。汗かいて、俊敏に動いて、でも、そんな一定
の枠にとらわれる必要も無いのではないでしょうか。セーリングにちょっと神経を集中して
セーリングそのものを、自分のペースで味わい、少しづつうまくなっていく。そういう過程を楽し
むという姿勢で充分ではないかと思います。そうやってセーリングしていると、バーチャルでは
考えられないような現実世界での感激を味わう事がある。これはバーチャルではありえない
事です。それが誰でもできる、目の前でできる。それを多くの方々に味わってもらいたい。夢
の世界とは違って、雨も降れば、寒い、暑いがあるが、それだからこそ面白い場面にも合える
なにも根性丸出しですごい事をするのでは無く、ちょっと今日は良いセーリングをしたいと思う
だけで良いと思うのです。そうやって乗っていたら、必ず誰でにでも感激するような場面が出て
くる。これは誰にでもできる事ですが、誰もやっていない、いや殆どやっていない。これはすごい
事だと思うんです。日本一周は実現すれば終わる。でも、これは一生終わらない。何度も、何度
も体験できる。しかもお手軽で近場でできる。近場だから、だれもしない。ちょうど、あの届かない
ポイントこそ大物の魚が釣れると思うのと同じではないかと思います。今、手が届く所で、小さい
かもしれないが釣り上げる事で、そのうち大物がどかんとかかる。

ですから、セーリングをスポーツしようと言うのです。セーリングに夢を持って頂きたい。でも、夢
より現実の方が遥かに面白い。夢が実現したら、その先にまた夢を持つ。私の夢は自分の気に
入ったヨットで、自由自在に、人艇一体となってセーリングができるようになる事です。そうしたら
どんなに面白いだろうかと思うのです。そして家族が来たら、自由自在に操って、本当に楽しい
セーリングを味あわせてやれる。友人が来たら、セーリングの醍醐味を味あわせてやれる。
ヨットに泊まっても、宴会しても、実に面白くなると思うんです。自由自在に操れる自分の姿は何
よりかっこいいじゃないですか。でも、その為に必死にはならない。楽しく、セーリングしていれば
そのうちきっと自由自在になると思います。多くの夢を壊しながら、別の夢を創造し、それが多くの
夢をまた創造する。やっぱり夢を売る商売です。

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