第二十六話 ビッグボート

日本には欧米のようなビッグボートは少ない。どこからがビッグボートかは決め事
があるわけではありませんが、まあ、少なくとも50フィートオーバーとなると、そう
多くは無い。これは決して日本にお金持ちが居ないからでは無く、運営に問題が
ありそうな気がします。つまり、そのでかいヨットをどんな風に運営したら面白いか
という魅力の問題でしょう。

世界にはたくさんのメガヨット専門のビルダーが居る。最低でも100フィート前後
以上しか造らない。そんな造船所が存在し続けるという事実がある。かつて聞いた
話では世界には年間100艇ぐらいのメガヨットが進水しているらしい。また、モナコ
にあるブローカーは毎月1艇の中古メガヨットを販売しているらしい。そういう世界
はそれなりの運営術を持っている。だからオーナーもそれなりの楽しみ方を知って
いるのでしょう。だから売れる。

でかいヨット持つと、そこら近辺のクルージングでは物足りない。だから、遠くへ、
遠くへ行きたくなる。海外へみ行きたくなる。そういう広範囲でのクルージングをも
楽しい物と考えなければ、こういうヨットを持っても使いきれない。使い切れないと
魅力が半減してしまう。その魅力が想像(創造)できないと、ビッグボートは買えない。
お金の問題では無く、魅力の問題ではないかと思いますね。

それで、日本ではどうか、そんなビッグボートは使いきれないので、40フィートから
45フィートあたりまでが良いんじゃないかと思います。偏見ですが。こういうサイズ
ですとショートセーリングから、ロングもできる。このあたりまでのヨットオーナーが
楽しんで乗り回してくると、その運営が成熟していきます。そうすると次のステップが
生まれ、50フィートやそれオーバーも出てくる。そして彼らがまた充分楽しむと、成熟
し、次のステップが生まれる。こうやってどんどんでかいヨットも運営術が育っていく
のではないかと思うのです。そういうプロセスを経ていかなければ、なかなか一人だけ
でかいの買っても運営がままならないのではないかと思うのです。

それで、そこまで到達すると、今度はまた別のステップが生まれる。今度はサイズが
小さくなる。でかいヨットで味わう豪快なセーリングも良いのですが、それを過ぎると
シングルでのセーリングを味わいたくなる。欧米ではそれが既に始まっている。
という事はかつては買い替えの度にサイズアップが常識でしたが、今度は、サイズダ
ウンもありという変化を起こしてきた。それは楽しいセーリング、愉快、楽なセーリング
という観点から面白いセーリングという意識に変わってきたのではないか。サイズが
でかいから面白いわけではない。どんなセーリングが面白いのか?それがポイントと
なるのでしょう。ビッグボートもたくさんあるし、スモールもたくさんある。たくさんある中
で自分が面白いセーリングをするにはどんなサイズが良いのか、それぞれが違った
考え、価値観があるので、自分に合うヨットを見つける。

日本では小さなヨットは軽視されがちですが、それぞれに魅力がある。ですから、人の
ヨットに惑わされずに、自分に合うヨットを見つけていただきたいものです。合うヨットと
は最も楽しめるヨットという事になる。でかいのも良いし、小さいのも良い。上でも下で
も無い。ヨットの何を面白いと思うか、それがポイントでしょう。但し、ヨットは何かを楽し
む為の手段ですから、何かを求めた時、それを使って何を楽しみたいかが重要でしょう
手段を目的としてしまうと、そこまでです。広いキャビンを求める人は、それでどんな楽し
みを得たいのか、帆走性能の高いヨットを求めた人はそれで何を求めるのか、手段と
してのヨットを手に入れて、それを使いこなす事によってはじめて面白くなる。例え、高級
ヨットを手に入れたとしても、満足感は一瞬に過ぎてしまう。その高級ヨットを使う事に
よって味わえる何かを得ないと、結局はストレスが溜まる。そうなるとヨットから離れてし
まう。そういうヨットはいかに高級であろうと、どんどん悪くなる。ヨットは道具ですから、道
具は使われる事によって生きる。使う事によって味わえる。その味わうという事こそが
本来求めている事ではないでしょうか。こんなヨットでセーリングできたら、さぞかし気持ち
良いだろうなと想像します。それで、こんなヨットを手に入れて、セーリングしなかったら、
何も手には入れられない事になる。

味わいたい事は何でしょうか?キャビンライフでしょうか?船旅でしょうか?或いは、セー
リングそのものでしょうか?レースで勝つ事?いろいろあると思いますが、まずはその焦点
を絞って、それを優先的に考える。そして予算、そしてサイズ、タイプこういう順番でしょうか。
ヨット選びの失敗は焦点がぼやけているせいではないかと思いますね。あれもこれもと考える
のは良いのですが、その中で最も味わいたい事を優先するのが良いと思います。それを優先
したからと言って、他の事ができないわけではない。そう思うんですが。

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