第四十一話 デイセーリングとシングルハンド

こういうコンセプトを持った造船所が新艇を送り出し、注目を集めています。実際、思った
以上に売れているようです。彼らは、何思ってこんなコンセプトを打ち出してきたのか、そ
こには確実に需要があると考えたからだと思いますが、それがこのところ欧米で注目を
集めるようになってきました。こういうコンセプトは昔からあったのですが、一部の愛好家
のものであったようです。ビッグボートがたくさんあるなかで、そういうでかいヨット、必ず
しも高いわけでは無く、小型ヨットのデイセーリング愛好家がいます。それら小型艇は必ず
しも安いというわけでもありません。それが好きで、のっていた。クラシックな木造艇なんか
もそうではないでしょうか。これらはマニアの世界であった。

元々デイセーラーというと小型艇で、20フィート前後ぐらいのサイズを考えていました。しか
し、ここに新しい考え方で投入されたヨット、これがアレリオン28ではないかと思います。
アレリオンは元々26フィートで、クラシックなロングキール艇でした。もちろん、木造です。
このオリジナルのまま木造で、現在も建造されています。このアレリオンの美しい姿を、
新しいデザインで建造するという考え方を持った人が居た。

クラシックなデザインでありながら、帆走性能を高める為に、リグや水線以下を新しい物に
デザインし、新しい考え方でクラシック艇を建造したわけです。それがアレリオン28です。
ロングキールはフィンキールに変わり、ラダーもバランスラダーになり、現代の最新技術に
よる工法で、新しい素材をもって、クラシック艇を建造したわけです。しかも、フラクショナル
リグを採用し、大きなメインと小さなジブ、それもセルフタッキングを標準とし、シングルを
容易にする為にすべてのコントロールに手が届き、重心を低くする為にフリーボードは低く
スタビリティーを高めた。その反面、キャビンは小さくなった。こんなヨットがどれだけ売れる
のか、当時ではかなり勇気の要る決断だったのではないかと思います。

しかし、ふたを開けてみると、多くのビッグボートのオーナー達が支持をしたわけです。ビッグ
ボートに乗るにはクルーが必要になる。それなりにメインテナンスも必要だし、しかも、気軽
にさっと出す事もできない。場合によっては、出す度にどこか不具合が見つかる事もある。
そんな中で、もうクルーの心配も嫌だし、煩わしいメンテナンスも嫌気がさした。もっと、気軽
に出せるヨットはないか、でも、帆走性能が良いのが良いとか、量産艇の小型艇では満足で
きない。そういう方々が、アレリオン28に移行してきた。クラシックな美しさが、これまでの
量産艇とは違っていたし、木造では無くFRPだし、帆走性能も高い。それに何と言って、気軽
に出せる。そういう魅力が、小さなキャビンではあったが、支持された理由だそうだ。もはや
遠くに行かなくても良いし、それに1泊や2泊程度なら問題無いし、ましてヨットに住まう事も
無ければ、大勢で過ごすような事も無い。それより、気軽さと美しさ、メインテナンスの容易さ
そして操作性の良さと帆走性能の高さ。これらが支持されました。キャビンは小さいが、気軽
さと重心の低さにおおいに貢献していたのです。

やがて、この市場性を見た他の造船所も追随する事になる。ただ、違っていたのはそのサイズ
です。もうちょっと大きくなって行きます。同じようなサイズではアレリオンには敵わないと思った
かどうかは知りませんが、少し大きなサイズにして、それでもシングルハンドとデイセーリングと
いうコンセプトを吟味し、容易に操作ができるようにしています。例えば、M36ですが、36フィート
というサイズながら、キャビンはシンプル、天井も160〜170cmぐらいしかありません。フリー
ボードも低いままです。これは現代の量産艇の考え方に逆行する考え方です。つまり、これは
セーリングする為のヨットという考え方だと思います。セーリング重視です。セーリングをより容易
に、面白くする為、それもシングルを容易に可能にする為、そちらを優先したと思います。欧米人
みんながヨットに住みたいわけじゃないし、忙しい人達もたくさん居ます。そういう人達が気軽に
セーリングを楽しむ事ができる美しいヨット、これがその流れで、確実に増えてきています。

外洋に行くなら体力と強靭な精神力も必要でしょう。でも、このデイセーリングには気軽さがり、
強靭な精神力も要らない。考えてみれば、誰でもできて、最も支持されてしかるべき乗り方では
ないかと思います。みんながこういうコンセプトを楽しみ、その中からさらに飛躍して、世界を回
りたいと考える人達が出てくる。これからはデイセーリングの時代だと思います。そして、さらに
言うなら、シングルハンドの時代だと思います。自由自在に乗りこなして、本当のヨットを楽しむ
時が来ていると思います。是非、デイセーリングを楽しんでください。

次へ     目次へ