第九十六話 釣りの魅力

私は釣りをしません。しかし、昔は少しやりましたので、多少は解ります。テレビで
たまたま釣りの番組を見ました。ルアーで鱒を釣るという釣りですが、話を聞いて
いますと、実に良く研究しているもんだなあと感心させられます。当たり前なのでし
ょうが、研究熱心さには脱帽です。

ルアーを投げる、そのルアーが底に着くまでカウントし、深さを測る。例えば、ルア
ーが底に着くのに10数えたとしたら、5では真ん中です。それで、1m刻みとか、
50cm、20cm、そういう細かい刻みでの層でルアーを引いて探っていくそうです。
彼曰く、たくさん釣るというのも釣りですが、少ないとしても、自分のプランで探り
推理しながら、それがヒットするというのが面白いそうです。なるほどな〜と思いま
す。この程度の事は当たり前なのかもしれませんが、面白いのは研究して、うまく
なり、ヒットするというところにあるのでしょう。そして竿に伝わるあの感覚を味わう
これが釣りの魅力なんでしょう。

竿をただ垂れて、偶然にヒットする事もある。でも、いつまでたってもそのレベルで
すと、釣りの魅力は半分も味わえないのではないか、研究し、予測したものが”ビン
ゴ”で面白くなる。釣りというのは非常に知的な遊びなんですね。その知的要素に
加えて、最後にヒットという感覚で締めくくる。

果たして、こういうのはマニアックなのでしょうか。日本に釣りファンはたくさんおられ
ますが、多くの方々は皆さん同じように、レベルはあるにしても研究してやってるのか、
それとも、これはマニアックな世界なのでしょうか。その辺はどうか解りませんが、少
なくとも、いろんな形で自分なりの研究をする方は大勢おられるのではないかと思いま
す。釣り好きが集まると、どんな研究をしているか自慢話も良く聞きます。深さを変える
餌を変える、ポイントを変える、いろんな事を試して、釣る。その為には、どこだって行く
という人も少なくない。どんなつり方をして、どんなに大きな魚を釣り上げたか、その話
になると止まらない。

熊本県の天草のマリーナに行った時ですが、そこでは関東、関西の方々がボートを置い
ている。わざわざ飛行機に乗ってやってくる。釣りをする為にです。寒いのに岸壁に岩
肌にへばりついて釣りしている。海上保安庁もそういう危険を犯す方々の事故が時々
あると言ってました。

面白いので、どんな事してでもやりたいと思う。そう思えば、何として都合をつける。時間
も造る。本来、誰でも夢中になるとそんなもんでしょう。例え、体が疲れようが、脳内には
興奮で一杯に満たされる。ほっといても、暇見つけて行くし、行くなと言われても、こそっと
行ってしまう。それ程、魅力がある。そしてベテランになっていくと、ある特殊の釣りしか
しないとかいう風になるようです。石鯛という魚が居ますが、年中これしかやらないという
人が居ます。釣れないとされる時期でも、工夫をして釣りあげてしまう。そこが魅力だそう
です。

さて、最後にヨットの話をします。好きな人、魅力に取り付かれた人は、なんとしてでもや
る。時間が無いと言う人は、それ程好きでは無いのかもしれません。でも、そういう結論
をつける前に、もう一歩踏み出して下さい。人間は単純なものには飽きてきます。難し過
ぎる物には手が出ない。でも、楽しむにはただセーリングするだけでは人間の知能を満足
させられない。釣りと同じように、研究して、最後にグッドフィーリングを得なければ夢中に
はなれない。逆に、学び、実行して、グッドフィーリングが得られれば、人は好きになります
その魅力が肌でわかる。釣りはレジャーですが、真剣勝負、つまり真剣にならないと、夢中
にはならない。ああ、楽しかったで終わると、次に乗る時は数ヶ月先でも良いという事になり
ます。それで何が悪い?と言われますと、悪くは無いのですが、せっかくヨットをやるという
10,000人にひとりのラッキーを得たわけですから、どうせならヨットのわくわくする魅力を
味わっていただきたいと思います。

それは研究し、学び、実行し、グッドフィーリングを得ていくと言うプロセスで成り立ちます。
最初からクルージングだから、セーリングはどうでも良いような発言を聞きます。業者にして
も、クルージングですからと言う。それがいけません。クルージングでもセーリングします。
レーサー程のスピードは出ないにしても、より良いセーリングを目指す事で、研究し、学び
ます。それが知性を揺さぶり、そして結果グッドフィーリングを得ると感性を揺さぶる。その
レベルが人それぞれだとしても、これが決してマニアックでは無く、当たり前の事だと思うの
です。楽しむには、こちらから何らかのアプローチがないと楽しみは解らない。
ですから、全ての人に、セーリングを研究、工夫してもらいたいと思います。釣りと同じように
ヨットも釣りと同じように深いもので、その研究対象には不足は無い。その為に風向風速計
スピード計、GPS等を活用して頂きたいと思います。クルージング艇にスピード計は不要なん
て思わないで、是非、活用して頂きたいと思います。そしてセーリングの研究をして頂きたい
研究なんていうと大袈裟かもしれませんが、少しづつでも解ってくると面白いもんです。
そうしたらもう夢中になって、ヨットをほったらかしにするなんて出来なくなって、暇さえ見つけ
たらマリーナに行ってて、ちょっとの時間でも出したくなるかもしれません。そうすると、ヨット
の良し悪しが解ってきて、もうちょっとこういうのが良いとか出て、それじゃ買い替えしような
んてなるかもしれません。私は、それお待ちしてます。でも、その前に、皆さんがヨットを堪能
して頂く事から始めなければなりません。

あれも要らない、これも要らないと言って、夢を壊すと言われた事ありますが、ヨットにおいて
セーリングという夢に勝る物は無いと思います。是非、自分がかっこよくセーリングしている姿
を想像してみてください。その美しい姿は魅力一杯です。ヨットに魅力があるのでは無く、ヨット
を操るオーナーに魅力が一杯なのです。ヨットの魅力とは、それを乗りこなすオーナーを魅力
一杯にしてくれる事です。

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