第二十一話 個性の時代

ノルディックフォークをマリーナに上架しておいておきますと、吸い寄せられるように、何人もの方々が見にこられます。皆さん”良いね、美しい”と言って頂けます。その他、潮気のある男らしいヨットという表現もありました。ライフラインが無いのが潔いとか、これなら近場の散歩セーリングに気軽で良いとか、存在感があるので、走っていてもこれなら他のヨットも譲ってくれるとか、感想は様々です。個性の時代、自分が自分らしくあれば、最も楽に楽しめる。ですから、誰でもこれが合うとは言えませんが、それは海とヨットに対してどんな期待をするかによると思います。

宴会や、キャビンライフや、大勢でのクルージングを期待するなら、このヨットは合わない。かつては世界一周の実績のあるこのヨットでも、今ではデイセーリング、ウィークエンドセーリングが似合う。このヨットは日本以外では非常に人気度が高い。彼らは時にレースをやる。このヨットだけのワンデザインのレース、そういう時は100艇以上、同じヨットが集まる。或いは、奥さん又は彼女とワインを1本携えて、セーリングに出る。或いは、シングルでセーリング自体を堪能する。大きなヨットを尻目に、気軽に出せる。波や強風にはめっぽう強いし、リーフをする事も無い。そうやって、いくつかのヨットを乗り継いで来た方々にとっては、このヨットがどれだけ気楽に、しかもセーリングのエッセンスを堪能できるかがわかる。

強風だと面白い、良く走ってくれる。軽風だと水面が近いので良く走ってくれるように感じる。絶対的スピードは確かに今のヨットには敵わない、しかし、感覚として面白いヨットなのです。そのセーリングして面白いヨットを気軽に乗り回すのが、このヨットの真骨頂、そして美しい船体です。こういう個性の強いヨットがメジャーになる事はありませんが、大衆は同じである事を望み、少数の方々が違うという事を望む。しかし、個性は違うという事より、自分らしくあるという事ですから、自転車感覚の、或いはクラシックスポーツカー的なこのヨットを理屈抜きで自分のライフスタイルに取り入れられるかどうかだと思います。

ヨットはオーナーにとって彼女と同じと以前書きましたが、気軽に、しょっちゅう合って、遊べる彼女か、たまにしか会えないがモデルのような美女が良いか、太ってるのが良い人も居るし、女性の好みは千差万別、彼女を選ぶ時は理屈では無く、感性が働いている。やさしいからなんて言うのは、後からの考え付いた理屈、最初は感性だったと思う。女性を選ぶ時は誰でも、個性的です。時には失敗したと思う事もある。でも、それは自分の感性が変化したからでしょう。その点ヨットはややこしくは無い。自分の感性が変わったら、その時は買い替えの時期です。それにしても、最初の数年間は相当楽しかったはずです。それは理屈では無く、自分の感性に合う選択をしたからだと思います。理性で選ぶと、最初から遊べないかもしれない。

それと同じでヨットの好みも千差万別のはず。理屈は後からついてくる。まずは直感で、良いと思うヨット、感じるヨットが最も良いのではないかと思います。すると、惚れると良い所ばかりが目に付く。すると多少のマイナス部分は気にならなくなります。どんなヨットでもプラスとマイナスはあります。自分の感性を信じて、大切にするのが遊びの遊びたる所以でしょう。どうせ、遊び以外には使えません。でも、この遊びこそが男を充電する為に、生きる為のエネルギーを与えてくれる、無駄なようで、重要な意味を持つ。人はパンのみに生きるにあらず、これですね。一般的女性はこれが解らない。でも、女性が宝石をほしがるのと何ら変わらない。人には無駄が必要であり、その無駄は本当は有用なのです。そこには個性、自分らしさが無ければ、せっかくの無駄はただの無駄になってしまうかもしれません。

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