第五十八話 シングルハンド

合理的な考えを基に、大きなヨットなら電動を使い、そうでないなら、これからはシングハンドヨットが必要だと思い、アメリカのアレリオンとデンマークのノルディックフォークに何年も前から注目してきました。そして、ここ1,2年、そういうシングルハンドヨットがどんどん出てきました。欧米でも同じ考え方だと自信を持ってきましたが、いかんせん価格が高い。ご予算が豊富にある方には、より快適で美しいヨットの提供ができますが、大量生産艇をベースに考えますと、価格は高い。

基本的に電動ウィンチなんか使わないという前提なら、せいぜい30フィート前後から以下ぐらいがシングルハンドには手頃かなと思います。今の所、これに該当するのがノルディックフォーク25と
アレリオン28、それに今度出るアレリオン33です。

シングルハンドヨットとして考えますと、船体重心が非常に低い。この事は絶大な安心感をもたらしてくれますし、セールがもっと大きく展開できるという事になります。つまり風に対するキャパシティーが大きいという事になります。この点は他のどんなヨットより大きなメリットです。同じバラスト比であっても船体そのものの重心がさらに低いので、全く違った様相を呈します。実際、こういうヨットにはみんなライフラインが無い、必要無しとされている。それは危ないと思うかもしれませんが、無しでも良いとされるスタビリティー、コクピットの包まれるような深さがあるという事です。

そういうスタビリティーを持つヨット、水面が近く、すぐそこに海面が流れる。スピード感もある。水面から上は低く、風圧面積も低い。コクピットに座って舵を握る。メインシートやトラベラーコントロール
ジブシートなど、舵を片手に手が届く。様々に変化する風に対して、片手でシートを引く、或いは出す。ブローを抜ける時でも、同じヒールアングルを保ちながら、スピードをキープしながらスムースに抜ける。タックも容易にスムース、ギリギリの上りのちょっとした緊張感を楽しみ、思い通りのコントロールを楽しむ。自由自在を楽しむ。集中して楽しみ、時にはのんびりだって自由自在。

確かに、キャビンでゆったりくつろぐにはちょっと窮屈に感じるかもしれません。でも、ヨットが本来セーリングを楽しむ物であるなら、多少キャビンを犠牲にしても、それより大きなセーリングの見返りがあるなら、これも有りではないでしょうか。不思議なことに、こうやってセーリングしてますと、キャビンもこの程度でも良いかなとも思います。何を主たるコンセプトにするかが問題です。

大きなキャビンを否定はしていません。それも有りです。ただ、コンセプトをどこに置くかで、それを有効利用できるか逆に足を引っ張るかになります。極端すぎると思われるかもしれません。でも、逆にそこまでやるから、大きな違いになる。どっちを取るかです。所詮は遊びですから、中途半端より面白いという考えも成り立つでしょう。ヨットは役に立たない乗り物です。これは逆に考えるとありがたい事実で、何かの役に立たせようと効率を考える必要が無い。考えても役に立たないのですから。それなら、100%、遊びとして、最も面白いと思う方法で遊べるという事になります。理屈は合理的、効率的を求めますが、遊びは理屈ではない。感性の世界ですから、それを最優先にしても一向に構わないどころか、そうすべきなのです。でないと充分堪能する事ができない。その事実に気づくべきです。そのうえで、セーリング優先にするか、大きなキャビンを選ぶかを決めれば、もっともっと面白いヨットライフが過ごせるのではないかと思います。どれだけ楽しめるかは、どれだけ自分の遊び心に忠実になれるかではないかと思います。世間や一般や皆が持っているからとかに左右されると、今一遊びきれない事になるかもしれません。人はそれぞれ違うという事を誰も知っている。知っていながら同じ列に並ぶのは、それが仕事をするような好みとは別な部分がある車などの選択の場合はちょっと違ってくるかもしれません。でも、ヨットは100%純粋に遊びだけですから、違う感性が違う物を選ぶのは当たり前ではないでしょうか。

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