第123話 SLOW

スローフードというのが流行っているそうです。スローライフというのもあります。昔に帰って、
ゆったりという事でしょうか。時は金成り。時間は重要、スピードは重視されてきました。それ
は今でもそうでしょう。しかし、一方で、もう良い、ゆっくりしたいという向きもあります。引退後
は田舎に引っ込んで、農業をするとか、そういう方もおられます。豊かさとは何か、というテーマ
があるような気がします。

こう長いこと不況が続くと、考えられる事は不安ばかり、いっそのことお金のかからない田舎に
住んだ方が楽ではないか。田舎に住んだら住んだで厳しい事もあるでしょう。でも、お金という
不安からは開放される。それに昔のように住んできた家にも未練は無い。心の豊かさを求めて
都会から田舎へ。

田舎の人は皆心豊かなのでしょうか。環境を変えたからといって豊かになるのか。人には各人
が持つ、心地良いリズムがある。速いリズムを好む人、ゆっくりを好む人。その本来の自分のリ
ズムに合わせるのは良いでしょう。でも、大切なのは今ある環境の中で充分味わう事ではない
でしょうか。何を味わうのか、自分のペースを味わう。世間体、常識、自己防御、そういうものを
捨てて、自分本来のペースを味わう。そのペースで自分がする事を味わう。する事を味わうので
あって、する事の結果を、成果を期待すると、再びストレスが溜まります。

ヨットはプロセスを味わいます。目的地を味わうのは二番目です。目的地が優先するとプロセス
は犠牲になります。これではヨットを味わう事はできなくなります。これからは何をするにしても
プロセスを大切にしてはいかがでしょうか。今までは結果が全てであった。しかし、これからは、
どのようにしたかというプロセスが豊かさになるような気がします。

ヨットのプロセスは、その日のセーリングのプロセスから、長い年月を経た過程の全体のプロセス
もあります。スローでも、クイックでも良い。自分のペースで、プロセスを味わう。今のスローは、
一種の流行のような気がします。田舎で野菜作るのも良い、でもできた野菜の出来、不出来に
一喜一憂すると、これまでと同じ。もちろん、良い野菜が出来れば誰でも嬉しくなる。しかし、造った
プロセスを楽しんだ事を忘れないようにしたいですね。ヨットは物ですから、結果です。持っただけ
では豊かにはなれない。それを味わってこそ豊かになろうというものです。

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