第17話 気軽さの効用

さて、これまで何度も”気軽さ”という事を言ってきました。何故、こんなにしつこく言うかと言いますと
ヨットを現在所有しているオーナーが、しかも豪華で大きく、どこへでも行けそうなヨットが、あまりにも
マリーナに係留されたまま動かない。そういうヨットが多過ぎるという事です。何故、こんなことになって
しまったのか、どんなに高性能であろうと、フル装備であろうと、高級であろうと、乗らなければ何にもな
らないという事です。実に、もったいない話ではありませんか。乗らないヨットはどんどん状態が悪くなって
いきます。可哀想なヨットが多過ぎます。

ヨットを購入しようと検討する時は、誰でも夢があり、ああもしたい、こうもしたい、あそこへも、ここへも
行きたい。そう考えます。そうすると船は予算の許す限りどんどん大きくなり、装備もどんどん増えてくる。
これが大きな落とし穴です。大きい事は良いことだ、とは限りません。装備が何でもでもついているという
事が良いとは限らないのです。これが解っているオーナーは実に気軽にセーリングを楽しむ事ができます。
経験を積んでいくと、自分の乗り方、自分が最も心地良い乗り方というのが解ってきます。そうすると、必要
な物と必要で無い物がわかってきます。そして、ヨットのサイズもどの程度が自分に最も適しているかが解っ
てきます。ここまで来るとヨットは自分の一部、生活の一部、ライフワークになり、何ら特別の事では無くなり
ます。そうしたら、気軽にセーリングを楽しむ事ができるのです。それまではヨットを楽しむより戦いになってし
まいます。戦いは心地良いはずがありません。自分の心地良いサイズ以上に大きいと操船に必要以上の緊
張感を伴い、楽しむどころでは無いでしょう。装備もメインテナンスにかなりのエネルギーが要求され、これで
気持ち的に疲れてしまう。こういう状態で本当に自分のヨットを見つけ出すまで、続ける事が難しくなり、動か
なくなり、ヨットに疲れてしまう。これではもったいないのです。

あるオーナーはセーリングは自転車のサイクリングのようなものだと言われていました。ちょっと体を動かして
自然の中を走る。スポーツ的でもある。ゆっくりこぐ事も全力で速くこぐ事もできる。その気になれば日本一周
だってできる。だけど日本一周は一種の冒険でもあるし、そんな必要も無い。気軽なサイクリングと思えば、
構える必要も無いし、装備も殆どが不要じゃないかな。

夜間に走る為に航海灯があるが、殆どの人達は夜間航行した事が無い。キャビンも大きいのは良いかもしれ
ないが、風が強い時には流され易いし、マリーナの出し入れは難しくなる。それに殆どの時間はキャビンに
入らないし、コクピットで過ごす。その方が気持ちが良いからね。照明だって、ギャレー(キッチン)だって、
みんな使ってないよ。シンプルで充分なんだよ。だけど、どのヨットもガスコンロ、それもオーブン付きなんて
言ってるけど、オーブン使ってる人見た事も聞いた事もないね。わざわざ面倒なので、カセットコンロ持ちこむ
人の方が多いくらいですよ。 ヨット人口の殆どはシンプルさを持った方が良い。シンプルな中でセーリングを
堪能する。そういう人の方が何倍も楽しめると思うよ。

シンプルさを実践している方の意見です。誰よりもヨットを愛し、楽しんでいる。車を見ても、今の車は何でも
フル装備、だからヨットも同じように要求してくるんです。車では邪魔にはならないかもしれませんが、ヨットの
場合では邪魔になるのです。不要なものは無いほうが良い。

サイクリングに行くようにセーリングに出かけるのです。構えず、たいそうに思わない。気軽にです。気持ち
の問題です。朝起きて、今日は天気が良いね、セーリングにでも行くか. それともボーリングにでも行く?
この程度でも良いではないでしょうか。或いは、セーリングにちょっと行って、それからボーリングに行くので
良いですね。

気軽に、気軽に、楽しく、楽しく、そうこうしているうちに、ヨットの魅力に取りつかれてきます。何故なら、気軽さ
から入った方はヨットの最高の面白さを味わってしまったからです。セーリングの醍醐味を経験してしまったら、
ヨットは面白くなります。ヨットと格闘する事から始めると、ヨットの最高の面白さを味わう前に疲れてしまいます。
ここがポイント、気楽さがヨットを始めるポイントです。

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