第90話 1.34ルール

もう一度、84話で書きました1.34ルートを取り上げます。前回はエンジンについての記載
でしたが、このルールはセールでも同じ事が言えます。エンジンからセールに置き換わった
だけの事です。ヨットがプレーニング(滑走)しない限り、水線長の長さによってスピードは限
定されます。これが1.34ルールです。この場合、全長は関係ありません。

√水線長 x 1.34

30フィートのヨットが25フィートの水線長を持つ場合、√25 x 1.34 =6.7ノットとなります。
このヨットがプレーニングしない限り、どんなに大きなセールを持ってこようが、このスピードを超える
事はできません。但し、この1.34という係数は平均的であり(もちろん充分有効です)、もし非常に
軽い排水量である場合は係数が変化し、もう少しスピードを出す事は可能です。でも、この値は、
様々な要因を考えた場合に充分機能する数値として使われています。

重い船体のヨットは、このターゲットスピードを達成するには、より大きなセールを必要とする。そして、
大きなセールを展開するには充分なスタビリティーを持つ事が必要です。スタビリティーの要素はたく
さんありますが、船体の重心が低い事、バラスト比が高いなどがあります。充分なスタビリティーは
他の艇がリーフしなければならない場合でもフルセールで走れるという事にもなります。

船体をデザインする場合は前回にも書きましたが、できるだけ水線以下の面積を減らすことはスピード
の増加に繋がります。さらにキールを深くする事によって登りを良くする。逆に、ウィングキールや浅い
キールは座礁の危険を減らす事にはなりますが、横流れを起こしやすい。どれが良いというより、どの
メリットを取るかという事です。また、クルージングヨットにはバウとスターンに大きなオーバーハングを
持っているものがありますが、これはレーシングヨットが水線長をできるだけ長くする為にオーバーハング
を取らないのと逆で、スプレーがかかりにくく、デッキをドライに保つ事ができます。レーサーはこういう事
よりスピード重視ですね。でも、水線長が短くなる事は同サイズ艇と比較すればピッチング(前後の揺れ)
はより大きくなります。

全ては比較の問題ですが、良くデザインされたヨット、帆走性能が高く、スタビリティーも充分で、操船
がしやすいヨットはクルージング派の方々にとっても実に楽しいものです。これまでの計算式で、様々
なヨットを計算してみて下さい。そのヨットの大まかな性格が出てきます。ひとつの数値で全てを判断
する事はできませんが、そのヨットのコンセプトは共通するはずですから、造船所がこのヨットをどのように
考えて建造しているかのコンセプトを掴む事はできるでしょう。帆走性能が高いからと言って、それが
レース指向というわけではありません。それぞれの値を充分吟味する必要があります。


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