第三十六話 勇気ある者 

面白そうだ、と思っても、なかなか自分自身に素直に従える人は少ない。他人と違う事をする事は非常に勇気が必要です。メジャーが正しい、マイナーは間違い、メジャーは安心、マイナーは失敗
するかもしれない、そういう認識があるからです。自分のしたい事が世間一般的だったら、すぐに入る事はできます。しかし、それがマイナーであったら、なかなか難しい。

前話でも書きましたが、マイナーだからこそ価値があるんです。ヨットはマイナーですから価値があります。そのヨットをしようというんですから、勇気があります。さらに、そのヨットの中でも、ちょっと他と違うヨットにするというのはさらに勇気が必要です。でも、たかが遊びですから、仕事じゃないんですから、多少ギャンブルだと感じても、素直に自分の気持ちに従うのが、遊びを面白く演出する秘訣ではないかと思います。大衆は心から遊んではいません。メジャーはそこそこしか遊べない
本当に面白い、ワクワクするのはマイナーな人達です。そして彼らは勇気ある人達です。ヨットは極めてプライベートですから、他人に合わせる必要は全くありません。自分の気持ちを優先した方が良い。それが成功の第一歩ではないかと思います。

ヨットで一体何をしたいのか、セーリングをしたいのか、キャビンで寛ぎたいのか、外洋に行きたいのか、今できるか、何年も先の計画か、こういう事を頭で考え始めますと、あれもこれもしたいとなります。そして、日本人は勤勉で頭も良いですから、先々を予想して完璧な対応を考え始めます。そうしますと、ああいう時、こういう時、そのどれをも対応できるヨットという事になり、結果、何でもできるヨットを求めるようになります。でも、実際、何でもできるヨットというのはありません。ですから、何でもできるように見えるヨットという事になる。

共通している事はレースはしませんという事です。その言葉から、もう既にセーリングという事が頭から離れてしまいます。つまりセーリング以外が選択の基準になります。ヨットはセーリングこそがその真髄かと思いますが、それが最初から無くなります。マストがあって、セールが2枚あれば良いという感じです。でも、ヨット本来の、独自の機能であるセーリングを考慮に入れないのも不思議な話ではないかと思うのですが、現実はそうです。かくて、ヨットはキャビンヨットという事になっていきます。

セーリングとは言っても、ただ速いという事が性能ではありません。直進性やスタビリティー、上り角度、バランス、そういう事はクルージング艇であっても面白いか、乗り易いか、時化た時に楽か頼れるか、そういう事が重要な要素だと思います。これらは、目で見て解りませんので、想像がしにくい、そこにも原因はあると思います。しかもちょっと乗っただけでは解りません。でも、これらが
重要である事は頭の中に入れておいた方が良いと思います。クルージング派にとって、これらはマイナーな要素になっています。ですから、余計、これらは重要なのです。

欧米ではセーリングする派としない派に分かれているようです。この二つを見れば、セーリングしない派がメジャーでする派はマイナーです。そこでこの両方をまとめてメジャーと考えて、シングルハンドが出てきた。これがさらにマイナーです。常に、メジャーがあり、それとは違うマイナーが出てきます。もっと楽しみたい、そういう人達が必ず出てくる。日本ではセーリングしない派がメジャーです。ですからセーリングを重視する人はマイナーです。マイナーである事は勇気を要します。たまに、自然にそれができる人が居ますが、多くの方々には勇気が必要です。でもその勇気ある人達によって世の中はリードされる。ヨット界も同じだろうと思います。勇気ある人達が楽しみ、その新しい使い方を演出して、それを見た周りの人達がその気になり、やがてはそれがメジャーになる。こうなると、勇気ある人はさらに先に進んでいるのかもしれません。心から楽しんでいる人、それは勇気ある人です。遊びが善か悪かというより、それを心から楽しめる人は実際はそう多くは無い。自分に正直で、自分を大事にして、個性があり、勇気がある人です。

次へ      戻る