第四十七話 横浜

イタリアのヨットを横浜に入れて、そのチークデッキに不具合がありましたので、イタリアから職人が二人来まして、その処理にあたったわけです。それで約1週間、横浜に居ました。さすがに横浜と言いましょうか、ヨット、ボートの数の多さ、毎日、毎日、ヨットやボートが修理等の為に上架されたりおろされたり、新艇もヨットが一艇、ボートが一艇進水してましたね。私の本拠地とは全然桁が違います。九州は1割経済と昔から言われますが、それ以下のような気がしますね、マリーンに関しては。でかいのも数多くありましたし、このマリーナだけで1500艇ぐらいはあるそうです。端から端まで歩こうという気にならなくなりますね。

丁度、横浜で花火をやっていましたので、いくつものヨットやボートが出てました。また、桟橋で係留したまま、ヨットから花火見物の方々もおられました。でも、全体の数からすれば、やはり非常に少ない。週末の動きを見ても、確かに多いのですが、全体の割合からすれば少ないのではないか、そんな気がします。そうですね、皆さん忙しいという事もあるでしょうし、ヨットばかりではなく、他の事もしている方々も多いでしょう。ヨットは多くの趣味のひとつかもしれません。動くヨットはしょっちゅう出てて、動かないヨットは係留しっぱなし、どうも極端な様です。ここにも両極化が進んでます。
どうも貧乏根性なのか、動かさないヨットというのはもったいないと思ってしまいます。もったいないのはお金ばかりではありません。せっかく、ヨットという誰でも経験できないものを持っていながら、それを体感しないというのも、もったいない。そこにおいておくだけなら、バーチャルのゲームをしているのと何ら変わりは無いように思えます。私共、業者としては、やはりオーナーにどんどん使っていただいた方が嬉しいわけです。楽しんで頂きたいと思っています。

かつて53フィートをダブルハンドでデイセーリングをしていた事がありますが、決してうまいわけでもなく、でも、どんどん乗って慣れてきますと、どんどん面白くなる。そういう事からしますと、大抵のヨットは二人もいれば遊ぶ事ができます。それは面倒とか、大変とか、そういう意識を捨てて、エイヤっと出してみる事、それもしょっちゅうやってみる事です。問題はヨットでは無く、腕でも無く、気持ちの問題です。すると、そのうち、いとも簡単に出せるようになる。最初のハードルさえ越えれば、後は何とかなる。そのハードルは面倒くささや、恐れなどです。最初は、意識して、やるぞと思う必要があるかもしれませんが、徐々に、どおって事が無くなります。

乗り続けますと、そのうちどこかに不具合が出てきます。それで自分で修理を試みる。それでひとつ学びます。長い間ヨットをやってますと、こういうひとつひとつの経験が積み重なっていきますから、それが大きな財産になります。こういう積み重ねが無いと、長い間、所有しているだけでは、何も積み上げられません。そして、解ってくるとますます面白くなるんです。ヨットが面白いのは、腕が良いからではありません。ヨットをやる過程で、ヨットの事がすこしづつ解り、腕も少しづつ上達していく。このプロセスが面白いのだと思います。なるほど、こうやってやるのか、と思った瞬間に何か充実した感覚が沸いてこないでしょうか。

解ってきますと、ヨットを大事にしたくなりますね。そして、徐々に自分の目指すヨットのスタイルが確立されてきます。こういう風に乗りたいとか、それにはこうして、ああして、そういうのが出てきます。スタイルが出来てきますと、それに反する物はどうでも良くなってきます。自分のスタイルをより充実させたいと思うようになります。これもプロセスとして、おおいに楽しめるようになると思います。それが個性になります。人間は全て個性的ですので、個性的にした方が、本来は楽しいはずなんですが、社会において順応する事を要求されますので、なかなかそうも行かない。でも、遊びに関してはは完全に解放されて良いと思います。

どの個性が他の個性より上とか、下とか無いわけで、あえて言うなら、個性的に自分スタイルで楽しむ事ができる人は、やはり達人だと思います。何故なら、ヨットに限らず、何をするにしても、良い事もあれば、嫌な事もある。それを全部引き受けて楽しむ事ができる人は達人だと思います。達人はうまい、下手ではありません。心から楽しんでいる人は達人です。ですから、自分スタイルにおおいにこだわって良いと思いますね。遊びですから。

美しさにこだわる人は、ヨットそのものの形から、色使い、そして、セーリングの美しさにまでこだわられます。スピードにこだわる人は船型はもちろん、できるだけ軽くして速さにこだわります。キャビンライフにこだわる人は、キャビンを充実させて快適空間を演出します。どんなスタイルでも良いので、自分を解放して、自分のスタイルにこだわって、遊びを演出する。そして、その結果、良い事も嫌な事も全部まとめて引き受けて、また次に進む。ヨットを遊ぶコツは、こだわりの演出と、それを体験するプロセス、そして出た結果全てを受け入れる事にあるのではと思います。そうしますと、腕では無い、初心者でもベテランでも、みんなが楽しめる。要は物事が楽しいか、楽しくないか、では無く、自分が楽しんでいるか否かでしょう。楽しい事は誰でも楽しめる。でも、嫌な事を含めて、全部まとめて楽しいと言えるのは達人ですね。降っても、晴れても。

話題はいつものようにそれてしまいましたが、無事、横浜の一週間を終えて帰ってきました。ところで、このイタリア人、良く働きます。昼食なんか、15分程度で終えて、すぐに仕事にかかりますね。これにはちょっと新鮮な驚きでした。

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