第五十五話 ショートとロング

あくまで個人的な感想ですが、ロングに行きますと、どうもだらだらしてきます。出だしは良いのですが、たいして変わらない風景、そして必ず来る時化、どこかに寄った時は楽しいのですが、それ以外はどちらかというと、あまり面白くなかった。ですから、楽しみは食べる事と行った先の観光となってしまいます。観光は車で行くのとは違うニュアンスがあるとは思いますが、その為に遠路はるばる航海をしていくという事はあまり私にとっては心地良いものではありません。瀬戸内海や長崎なんかの島々のそばを通りますと、ちょっと小さめのヨットで、スイスイ走り回ったら面白いだろうなと思います。ですから、できれば、車で来て、その地でヨット借りて、そこをセーリングできたら最高です。

一方、デイセーリングをしている時は、とってもエキサイティングになれるし、時化ても、その対応が結構面白かったり、うまく走らせる事ができた時の快走は感動的でもありました。その両方を味わってみますと、私はショートセーリング派です。ですから、ショートセーリングにおいていかに面白く乗るかという事を考えます。それをどんどん考えて行きますと、シングルハンドになっていきます。

ですから、世界一周も日本一周も全く興味がありません。せいぜい、近場の1,2泊程度の距離で私には充分なのです。全ての方々が同じ考えではありませんので、誰にでもというわけでは無いのですが、そういう割り切り方ができると、これまた面白いセーリングが出来ることがわかりました。
最初からロングに行こうなんて思ってもいないんですから、今日のセーリングはどうなるか、そんな事に集中できて、短時間で面白いセーリングができる事が解ってきました。こうしよう、ああしよう、これはどうなのか、そんな事が毎回出てきます。それでまた学んで、また乗る。これの繰り返しで、成長もするし、知らなかった事が解ってきたり、そういう乗り方をしていきますと、整備も良くしたくなるし、そこでまた学ぶ事もできる。そういう面白さが目の前にある事が解りました。そうしますと、ますますロングに行きたいとも思わなくなってきます。キャビンなんかもそこそこで良い、狭くても良い、でも美しい方が良い、シングルで操船し易い方が良い、重心は低い方が良い、そんな風になってきました。

残念ながら、日本ではあまり同調はしていただけないかもしれませんが、どんどん乗って、いろんな体験をしていきますと、中には同じ意見を持っていただける方も出てくると思っています。逆に、ロングこそが面白いと思われる方もおられるでしょう。それで良いんだと思います。みんなが、それぞれ自分のスタイルを見つけ出して、それを楽しむ。そういう風になれば、ヨット界は発展していくと思います。ロングでもショートでも良い、自分が楽しければ良い、その為にはある程度は乗り込んで自分を知る必要がある。

遠くに行った事無くても、セーリングの微妙な感覚や、快走が感じられる、そういう乗り方はロングとはまた別の世界だと思います。セーリングそのものを味わう世界、それから旅として味わう世界
同じヨットでも、この二つは世界が異なります。100%完璧なヨットは無い代わり、自分の意識が、これが望みだと明確になればなるほど、満足感は大きくなると思います。

つまり、ロングは船旅であり、ショートになりますと、単に移動するでは無く、いかに走るか、セーリングの動き、操作、反応、それらを感性を持って感じる。ロングは意識が外に出ていき、ショートは
自分の中に向かう。そういう違いがあると思います。ロングは行った先の食べ物や温泉など、そういう楽しみがあります。でも、やっぱりセーリングの方が遥かに面白い。

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