第五十三話 業者同士の会話

我々業者同士で時々話をしますが、結論はいつも、オーナーが楽しんで、どんどん乗ってもらうようにならなければ、業界も発展しないという事です。彼はヨットでは無く、ボート専門業者ですが、ボートは釣りをする以外では、皆さん使いあぐねていると言います。釣りを好きな方は多いので、釣りをするには釣りボート、ボートが趣味では無く、釣りが趣味で、その事がボートにも反映されます。

ヨットはと言いますと、レースは良いのですが、レースする人は少ないですからメジャーにはなりません。レース以外で、どんな使い方をするのか?それが面白くなくてはいけませんし、ただのんびりできるという程度では、ヨットでなければならない理由は見出せない。

日々の中で、ヨットが面白いと感じるには、セーリングをいかにするかの他に無いだろうと思います。キャビンはヨットでなければならないとは感じさせないし、旅はイベント的でたまにの話になりますし、日常をどうやったら面白くなるかはセーリング以外には思いつきません。

でも、そのセーリングを漫然とただ走っていたのでも、面白いという事には至らないと思います。これは最初は良いのですが、だんだん面白味が薄れてくるというものです。ワイワイガヤガヤのピクニック気分は楽しいですが、それだけで、年に何十回も、それも5年、10年と続けていくには動機が弱すぎると思うのです。

それでスポーツ的クルージングのお奨めをしているわけですが、狙いはセーリングそのものを面白いものとして使い、イベントでも何でも無く、日常の小さな冒険だったり、チャレンジだったりして、日々の生活の中で気軽に面白さを味わう事が重要だろうと思います。そして、セーリングはそんな風に遊ぶのに値するかと言えば、充分に値すると思います。レースで無くても、より良いセーリングを目指して、小さな冒険を繰り返す。そこに面白さがあれば、日常の遊びとしては最高になります。
これがベースにあってこそ、イベント的旅や宴会やピクニックやキャビンが意味を持つものとなってくると思います。

セールを上げれば誰でも走る事ができます。それは釣り人が糸を垂れれば、何がしかの魚がかかるようなものです。最初はこれで良いんです。でも、釣り人はもっと大きな魚を釣りたいとか、ある特定の種類の魚を釣りたいとか、そう思って仕掛けを考え、いろんな工夫をして、あっちこっちに出かけて行きます。その情熱はどこから来るのか?それは面白いからに他なりません。ヨットにおいて、ただセール出しているだけというのは、糸をただ垂れているようなもので、もっと良い走りをしたいとか思わないと、面白味が欠けてきます。釣りに比べると魚がヒットした時のような突然の興奮というのはわかりにくいものですが、それでも、集中して走ってますと、そういう感覚が沸き起こってくる事があります。それを味わえば、誰でももっとセーリングと思うと思いますが、それを味わうには神経を集中して走り続ける以外にはありません。

ヨットを遊ぶには、セーリングが一番です。そしてそれを気軽に実行して、日々の暮らしに溶け込ませるにはデイセーリングが一番、そしてそのデイセーリングを誰の影響も受けず、気軽に好きな時に味わうにはシングルハンドが一番、そういう事になります。従って、シングルハンド、デイセーリングは最大公約という事になります。

パワーボートのオーナーも釣りをしない方は、日々、どうやって使うか、楽しむかは問題です。イベント的にしか使えないとなりますと、1年間の殆どは使わない状況になります。使わなければ、年数が経てばもっと使わなくなります。するとボートは傷みます。良い事は何も無いわけです。ヨットがセーリングしないのなら同じ事です。いかに面白い演出をするかにかかっています。それは誰でもイベント的に使う事は考えますが、日々の中において使い、それが面白いものでなければなりません。そして面白いにはちょっとした冒険心を含んでいなければなりません。ボートでそれをどうするかは思いつきませんが、ヨットに関しては、セーリングがあります。これさえ面白いものにしておけば、ヨット全てが面白くなります。面白いセーリングにするには、神経を集中して走る事、これだけです。短時間でも良いと思います。いかに走るかを考える。工夫する。ハッスルしなくても良いですが、気持ちはセーリングにある。これだけで、きっと面白くなると思います。

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