第六十二話 細い糸

物事が浸透していきますと、それまでとは違うやり方を試したりするものです。釣りの世界では、大物狙いをし、そして、大物をできるだけ細い糸で釣り上げるという楽しみ方があります。太い糸なら
切れにくい。でも、細い糸なら無理をするとすぐに切れてしまいます。ですから、魚とのやりとりがより難しくなりますが、その難しさを楽しむわけです。

小さなヨットというのは、それと同じようなニュアンスを感じます。初心者だから小さいヨットでとは限りません。小さいヨットの方が同じ波や風なら影響を受け易い。ですから、よりうまいコントロールが楽しめるというものです。それは細い糸を使うのと同じです。それで、うまくコントロールできたら、より面白さを堪能できるかもしれません。そう考えますと、大きければ良いという問題では無いと思います。どんな風に楽しみたいかによると思います。

実際、大きなキャビンヨットよりも、小さな性能の良いヨットの方が、セーリングとしては面白いかもしれません。ただ、大人数は乗れないとか、外洋へは行けないとかはあるでしょう。少なくとも旅主体では無いと思います。

防波堤で釣りを経験しますと、だんだんと大きな魚を釣りたくなります。それで仕掛けは大きくなり、遠くへも出かけて行きます。それは丁度、小さなヨットで始めて、だんだんとヨットが大きくなるのに似ています。釣りの場合は遠くへ行くとしても、車や飛行機で行くとすぐに到着しますが、ヨットはそうはいきません。そうなるとなかなか誰でも行けるものでは無い。かと言って、防波堤で大仕掛けの道具は使いづらい。これも同じで、日常のセーリングにおいてでかいヨットは使いにくい。
それで、細い糸で釣りの感触を楽しむように、小さいヨットでセーリングを楽しむという方法もあってしかるべきと思います。実際、日常に楽しむならデイセーリングの方が良いわけですから、細い糸的にセーリングを堪能するのも多いに有りで、むしろ、この方が数的には増えてしかるべきと思います。

小さいヨットだと、場合によってはウィンチを使わなくてもコントロールできる場合があり、特にシングルで楽しんでいる時は、舵を持ったまま、シートの出し入れをいちいちウィンチに巻かずともできれば、なかなか良い感触があります。それに影響を受け易いという事は、微風でも感じ易いわけで、デイセーリングで遊ぶにはもってこいではないでしょうか。

もちろん、でかいヨットで自由自在に楽しめれば、それはそれで豪快な帆走を楽しめる。でも、それには気持ちの、負けないパワーが必要です。大きなヨットほど面倒くさい作業が多い。それを面倒と思わないパワーが必要です。

昨今では小さなヨットが軽視されがちですが、成熟した欧米を見ますと、メガヨットもありますが、同時に小さなヨットも盛んです。セーリングとしては、その方が面白いからでしょう。それに気楽にもなれる。そういう細い糸的な見方も考えてみてはいかがでしょうか。デイセーリングとは言っても、強風もありますから、しっかりした造りの高いスタビリティーを持った小さなヨットも、なかなか面白いセーリングができますので、是非、考えてみて下さい。

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