第六十五話 初心者とベテラン

初心者の頃は海に出るだけで、帆走するだけでも結構面白いと感じます。それは今までには無い未知の世界へチャレンジであるから、全てが新鮮に感じるんだと思います。ヨットを長く遊ぶには、このチャレンジがいつも必要です。それが無いと知らぬ間に漫然としたセーリングになってしまいます。

ある楽器奏者ですが、彼曰く、練習の時はきちんと意識してする事が大切であると言ってました。へたすると漫然と演奏している。漫然と演奏する時も、今はそうしていると意識する事が大切だそうです。昔、昔、英語を勉強していた時ですが、その時も、今日はこの言葉を使うと意識して出かけました。そして、どこかの時点で必ずそれを使う。すると、そういう言葉は忘れないんですね。

今日はジブセールのトリミングに集中してみる、或いはメインに集中してみる。これなどもいろんな風向風速がありますから、いろんなパターンがあります。それで、ひとつづつやってみる。最終的にはトータルにやる必要がありますが、各部についてひとつづつ学ぶのも良いかと思います。

今度はタックの方法、いかにタックをスムースに効率良くやるか、舵の切り方やシートのリリースのタイミングとか、そういうコンビネーションをテーマにして学ぶ。ジャイブも同じです。

初心者だった頃、走ればそれだけで面白かったのが、今度は少しづつ各部を習得し、より深く知っていく。それがチャレンジだろうと思います。新鮮に保つ秘訣だと思います。そういう事をやっていきますと、シートを引く時の角度、力加減、留める時のやり方、等々、ああでも無い、こうでも無い、もうちょっとこうだったら引き易いというのが出てきます。工夫が出てくる。それも遊び。自分が経験して、自分ならこういう具合が良いと思えば、どうすればそうなるかも考えます。それが面白いに繋がっていくと思います。ある日気がついたら、あっという間にベテランの域でしょう。

ベテランは既に各部に習熟しています。ですから、トータルでよりスムースなセーリングをやります。でも、上には上が居るもので、奥が深い。今度はコース取りの数学的遊びをしてもいい。デイセーリングにおいて、今日はどこまで行くと決めて、その最も速く行くコース取りなどを考えても良い。
とにかく、今日は何をするかという事を意識してやるのが良いようです。

ピクニックセーリングをする時は、そう決めてやる。ゲストを招待した時もそうです。もちろん、決めたからと言ってなにが何でも達成するという必要も無い。途中で切り替えても良い。とにかく、何をしているのか意識してやると、学びも多いし、習熟も早くなる。そうなると、面白さも増えてくるし、セーリングにおける感覚も磨かれる。新鮮な感覚をいつもキープできるようになるし、より高いレベルにも上がっていく。すると、最終的には、自分の腕に応じた面白いセーリングの感覚、グッドフィーリングが得られる事になります。ひとりでも多くの方が自分のグッドフィーリングを目指してセーリングに専心される事を望んでいます。そうすれば、ヨットには奥深い面白さがある事がわかる。

本番の為に練習する。でも、レースをしない方にとっては、練習が即そのまま本番でもある。こうやっているからこそ、ゲストを招待した時、自由自在にセーリングして、ゲストにも充分楽しんでいただけます。ゲストにとっても、ヨットでお茶するのも楽しいですが、これには深さが無いので、もっととは思わない。でも、セーリングを味わってもらえば、ゲストの反応も違うはずです。

たかがヨットに、たかが遊びに、何もそこまで集中して練習しなくても、と思われるかもしれません。でも、面白可笑しいだけでは、5年、10年とはやれません。そこに充実した何かがあるからこそ、
10年でも20年でもやりたくなる。ヨットは他の遊びよりエネルギーを要します。誰でもできるとは言いますが、そのエネルギーを持たない人はできません。お庭でちょこっと遊ぶのとはわけが違います。それだけに、それに値する動機が無いと続けられない。その動機は強烈なグッドフィーリングですが、そのグッドフィーリングを得るには、専心しないと得られないと思います。つまり、より上達を目指して、練習する。その練習が面白い。上達が面白い。練習が面白く無いなら、やれません。

次へ      目次へ