第八十一話 ヨット文化

思い起こせば、あのバブル、その後遺症が長い事続いて散々な目に会った方も少なくありませんが、悪い事ばかりかと言いますとそうでも無かったですね。あの頃は皆さん良い目を見られた。良い時代だったとも言えます。

こういうバブリーな時代は文化が栄えます。あの時代だったからこそ、ヨットは一気に増え、マリーナも出来たし、サイズも大きくなりました。それに超豪華なブランド物のヨットも増えました。そういう点では悪い事ばかりでは無かったとも言えます。いやいや、あの時代は良かった。その後がいけません。極端に落ち込んでしまいました。

あの当時はとにかく、電話は朝から晩まで、鳴りっぱなし、いよいよ俺達の時代が来たと勘違いしてました。兎に角、より大きな物が売れました。海外の造船所、ボートショー、あっちこっち駆けずり回ってヨットを漁ってきたものです。新規参入の業者もどんどん増え、東京のボートショーも活気があり、駐車場までつぶして展示場に早変わり。そういう時代でした。

いろんなヨットが入った事は事実ですが、実際は手のこんだ納期のかかるヨットはあまり入ってはいません。価格が問題だったのでは無く、すぐに手に入らないのが我慢できなかったのです。それで、入念に造りこまれたヨットは納期が長い。そういうヨットは敬遠されていました。ですから、そういうヨットも増えた事は事実ですが、そう多くは無いです。

世界にはたくさんのヨットがまだまだあります。日本もこれから、ヨットが浸透していくにつれて、そういうヨットの良さが認められていくようになると思います。それらは確かに大量生産艇よりは高価でありますが、それらは世界では認められているヨットです。高価でも市場が受け入れています。この事は価値を認められたわけですから、価値あるヨットです。ただ、自分の価値観と照らし合わせて、合うか合わないかの問題です。

ヨットは車と違って、長く使われる物です。例え、人手に渡ったとしても、それは何代にも渡って継承されていきます。あるアメリカでの話、あるヨットは初代オーナーが付けた船名を、代々変えずに乗り継がれてきた。初代オーナーは誰々、二代目、三代目....と続いていきます。それは初代オーナーに対する尊敬を込めて引き継がれる。そんな文化があると良いですね。ヨットも大事にされます。10年や20年と考えれば高価ですが、50年、100年続くとしたら?そんなに長生きしないと言われますが、後世に残すという文化的な捉え方です。単なる消費財として消えて無くなるという考え方ではありません。そんな心がヨット文化を育てていくのではないかと思います。日本人の文化の厚みを成すものと思います。

ここに経済だけでは無い、文化的意識が加わる事によって、ヨットはさらに幅を広げていきます。率直に言いますと、安けりゃ何でも良いという事では無い。より良い物を導入し、それを後世に伝えていく事が必要です。もちろん、自分が良いと感じるヨットを導入して、おおいに楽しんで、大事に維持をしていく。そうやって楽しむだけで良いわけです。その心が自然に伝わっていき、広がり、文化を形成していく。今ある物を、手元にある間は責任を持って、大事にしていく事が必要でしょう。
文化は過去から未来に向かって繋がる、長い蓄積です。これからはそんな事もちょっと意識しては
いかがでしょうか。良いヨットを長く乗り続ける。後世に渡す。ですからメンテも手を抜けませんね。
どんなヨットであろうが、気に入って導入したなら誇りを持って遊び、大事にして下さい。

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